歳を重ねると、足腰の筋力が落ち、自宅での転倒やつまずきが増える。それを予防するためには、体が動かなくなる前に部屋と廊下の段差を解消したり、階段に手すりをつけるといったバリアフリー改修が重要になる。高齢者向けのリフォームと福祉用具を専門的に扱う高齢者住環境研究所の溝口恵二郎社長が指摘する。
「バリアフリー改修には元気なうちに済ませておきたいものと、後々無駄になりがちなものがあります。自宅の段差の解消といった大掛かりな改修は体が動くうちに行なうのが望ましい。反対に、とりあえずつけたものの邪魔になってしまうものもあります」
改修を先取りしすぎると後々、使いにくくなって失敗というケースも少なくない。溝口氏は「その筆頭が、トイレや廊下への手すりの設置です」と語る。
「右利きの人がトイレの右の壁に手すりを設置しておいたところ、脳梗塞で体の右側が麻痺して手すりを使えなくなったというケースは少なくありません。廊下の場合は歳を重ねるにつれて腰が曲がり、設置した手すりの高さが合わなくなって無駄になるケースや、車椅子の生活になった時に手すりが邪魔して通れなくなるケースが考えられます。
日本の住宅は廊下が狭く、通常の幅が約80センチしかありません。手すりは壁から約8センチの幅を取られるので、手すりを両壁に設置すると横幅が63センチ(手動車椅子のJIS規格)の車椅子でギリギリです。工事自体は比較的簡単なので、必要に応じて設置することが望ましいのです」
60センチの手すりを1本取り付ける費用が約1万~2万円。廊下は10本ほど必要になるので約10万~20万円かかるが、体の変化に合わせて改修しないとまるまる無駄になる可能性があるのだ。
狭い日本の住宅事情が原因で無駄になりがちな改修はほかにもある。
「玄関先から道路までの段差を解消する場合、なだらかなスロープを設置できるほど自宅の敷地が広ければいいのですが、道路までの距離が短い場合はスロープが急勾配になり、滑りやすく危険です。簡易的なものではなく、基礎から作ってコンクリートで仕上げると約20万~30万円かかりますが、結局使わなくなる可能性があります」(溝口氏)