仕事も子育ても一段落した定年後。そこで大きな問題となるのが、住まいだ。埼玉県在住の60代男性は自宅の取り扱いに頭を悩ませている。
「子供が独立して2階建ての自宅を持て余しています。売ってマンションへの引っ越しも検討しましたが、子供を育て上げた思い出があります。しかし、ここ最近は“古くなった実家は隙間風で寒い”といった理由で子供が帰ってくる回数も減ってしまいました……」
一国一城の主として建てた我が家をやすやすと手放すのに気が引けるなら、リフォームという選択肢がある。高齢者住環境研究所代表の溝口恵二郎氏が語る。
「“老後は住み慣れた我が家で”という人は少なくありません。ただし、介護状態になってからの修繕では気力と体力が持ちません。子供が独立した時点で10年先を見据えて、自宅の改修を進めたい」
それでは、快適に暮らすにはどこをどう直せばいいのか。「まずは生活の基本である水回りから」と溝口氏は言う。
「築30年を超えると配管やパイプが寿命を迎え、取り替えが必要です。その際には将来、車椅子で利用できる広さを確保したい。最低トイレは1畳、風呂と洗面所は2畳ずつあれば、介助者が車椅子と一緒に入れるスペースができます。浴槽や便器に洗面器の交換、バリアフリー化や配管の交換などを合わせると約200万円かかりますが、住み替えより断然安く済みます」
さらに、前出の60代男性のような悩みを解消するには“子供が帰りたくなる家”にすることも大切だ。溝口氏が続ける。
「子供が求めるのは、『安心できて居心地の良い住まい』です。新しい耐震基準ができた81年よりも前に建てられた家は耐震性を強化して、安全性を高めたい。また、床暖房の導入や断熱化などで窓の隙間を塞いで『実家は寒い』というイメージを払拭するといいでしょう」