鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第2回は「鉄道に鉄が使われるまでの歴史」について。
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鉄道は「鉄の道」と書きますね。さてここで問題です。なぜ鉄道は「鉄の道」と書くのでしょうか。もちろん、鉄レールの上を鉄車輪が転がるという走行システムを採用しているからなのですが、なぜレールや車輪の材料として「鉄」を採用したのでしょうか。
結論から言うと、「鉄」は入手がしやすく、加工が容易で、硬い材料であり、レールや車輪の材料として適していたからです。また、「鉄」は地殻(地球の表層部を形成する岩石層)の元素の中で重量比率(クラーク数)が4番目に多く存在する元素であり、人類が道具をつくる材料として多用してきた金属元素でもあります。
しかし、鉄道の歴史をたどると、最初からレールや車輪の材料として「鉄」を使用していたわけではなく、「木」を使用していた時代も存在することがわかります。
それでは、「鉄道」と呼ばれる輸送機関はどのようにして生まれ、現在の形になったのでしょうか。この「鉄道の起源」については諸説ありますが、ここでは現時点で有力とされる説を、舗装道路の始まりからご紹介しましょう。
舗装道路の成り立ち
現在、日本のおもな道路は「舗装道路」であり、路面がアスファルトやコンクリートで舗装してあります。このため、自動車などの車両が通行しても、路面が変形しにくい構造になっています。
ところが、道路が舗装されてなく、地面が露出していたころは、車両が通行すると、車輪が通った部分だけ地面が凹んでいました。この凹みを「轍(わだち)」と呼びます。
地面は、雨が降ると軟らかくなるため、車両が通行すると深い轍が刻まれ、場合によっては車輪が動かなくなります。また、刻まれた轍が多くなると、路面の凹凸が多くなり、車両が通行しにくくなります。