春は引っ越しの季節。新居探しは夢が膨らむものだが、予算の都合で妥協を強いられるパターンは珍しくない。駅からの距離、築年数、日当たりなど、家賃を削るポイントはいくつもあるが、比較的家賃が安くなるのが「線路沿い」の物件だ。日常的に電車の音に悩まされるのは避けたいと考える人もいるだろうが、実際の住み心地はどうなのか。住んでみたことがあるという人たちに、話を聞いた。
夏場は窓を閉め切ってエアコンをフル稼働
千葉県に住むカズオさん(40代/男性)は長い間、日中は3分に1回の頻度で電車が通る高架沿いに住んでいる。
「30代の初め、中古の格安物件を探していて見つけたのが、いま住んでいる部屋です。私の希望はとにかく都心に近く、なおかつ安いこと。そんな都合の良い条件の部屋を探すのは大変でしたが、相場よりかなり安い物件を見つけて下見に行くと、目の前を電車がバンバン走るマンションでした。しかも売り出されていた部屋は、まさに線路が通る高さの階です。
それでも部屋に入ってみると、窓は二重になっていて、騒音は思ったほど気になりません。私は毎晩お酒を飲んでバタンキュー、一度眠ったら起きないタイプなので、騒音は気にならないかもしれないと思いました。しかも駅から徒歩3分で、スーパーもすぐそば。同じ最寄り駅から徒歩3分で、線路沿いでない物件より3割近く安かったので、購入を決めました。
いざ住んでみると、二重窓のお陰で窓を閉めているうちはいいのですが、窓を開けるとやはり騒音が凄まじいので、窓を開けっぱなしにはできません。夏でも窓は閉め切ることになり、エアコンを常時稼働させるので、電気代は相当かさみます。あと、多少振動があるため、震度2くらいの地震だと気付かないこともあります」
実家は音楽教室。大きな音を出しても問題なし
ヨウイチさん(30代/男性)は実家が線路沿い。両親が積極的に選んだ結果の家だったという。
「実家は私鉄の線路沿い、しかも踏切の真横です。私の母親は自宅で音楽教室をやっていて、一日中大きな音を出すため、わざわざ線路沿いを選んだとのこと。塀に掲げた看板が電車から見えるため、宣伝したいという理由もあったようです。騒音は確かに酷く、時には朝5時台の始発電車で目が覚めることもありましたが、生まれてからずっと騒音のある環境で育ったので、かなりうるさい場所でも寝られる特技が身につきました(笑)」
音楽教室に限らず、ボクシングジムやダンス教室が線路沿いに多いのも、自分たちが出す音で周囲に迷惑をかけることがないうえに、宣伝しやすいという事情があるようだ。商売や教室をやるなら、線路沿いはむしろ“買い”という側面もある。