再び悲観論が米国株市場を支配し始めているようだ。8月26日のNYダウは▲1008ドル(▲3.02%)の急落、週明けの29日も▲184ドル(▲0.57%)下落した。この1か月ほどの株価の動きを振り返ってみると、8月16日の場中で記録した3万4281ドルが戻り高値であり、29日の終値は3万2099ドルで、高値から6%下落した水準だ。
急落の要因は、連日マスコミによって伝えられている通り。パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が26日のジャクソンホール会議で講演、「早すぎる緩和には大きなリスクがある。インフレ退治には苦痛が伴うだろうが、それでも利上げを続ける」などと発言したことで、8月中旬までの戻り相場のよりどころとなっていた“2023年にも緩和政策に転じるのではないか”といった期待が大きく後退、それで急落したのである。
完全にインフレを抑え込まない限り、金融政策の転換はありそうにない。金融政策の転換がない限り、経済への下押し圧力は加わり続け、投資家の悲観は解消されない。つまり、株価の先行きを予想するには、今後、米国のインフレが収まるかどうかが極めて重要である。
日本のメディアは米国政府への配慮が働くのであろうか、当局にとって都合の悪いニュースは相対的に少ないといった情報の非対称性があるように思う。一方、中国メディアにはそうしたところがない。
25日にAP通信が伝えたニュースとして、中国中央テレビ局は27日、〈“米国は依然としてロシアから大量の輸入を行っている”ことを米国メディアが暴露〉と題して、米国の“不都合な現実”について説明している。これは現在のインフレが如何に深刻であるかを物語る貴重なデータである。
米国はロシアに対して経済制裁を加え「壊滅的な打撃をあたえる」と公言したが、一方で、「自らの利益のために、多くの領域で依然としてロシアから輸入を続けており、その品目数は100に及ぶ」としている。
2月以降も、ロシアから900隻以上の船舶が入港、米国は総額2億6400万トンの金属製品を輸入している。ボーイングを始め、米国政府の影響の大きな数百社余りの企業もこの輸入にかかわっている。
さらに、米国は3月、全面的にロシアからの石油、天然ガス、石炭の輸入をストップすると宣言したが、過渡期を設けており、それまでに契約を結んでいた部分については輸入を認めている。米国航空会社傘下の石油精製会社なども輸入禁止措置が発動された後も、大量の石油を輸入している。そのほか、ロシア産の肥料などについては従来通り輸入が続けられている。
経済学者などは、「足元でインフレが高まっており、ロシアからの輸入を完全に止めてしまえば、インフレをさらに助長してしまう。この状態で、もしそんなことをすれば、米国の方がロシアよりも大きな被害を受けるだろう」と説明している──。