もともとは食卓に手料理をずらりと並べるのが好きだったという樋口さん自身も、現在は「調理定年」を迎え、弁当や総菜を活用しているという。
「5年ほど前、80代前半で家を改築したことで台所の使い勝手が以前と変わったことをきっかけに、本格的に調理から一線を引きました。おたまを取ろうと思って手を伸ばしたら、たわしだった、なんてことが日常茶飯事になってしまって……(笑い)。だからいまは、週に1度はお弁当を配達してもらっていますし、スーパーのお総菜も頻繁に食卓に並べています。
もし、お皿に移すのも億劫ならば、そのまま食べたって構わない。パックの中のツマにのった刺身も、お皿に移した刺身も、味に変わりはまったくありません。年を重ねるほど気力や体力は落ちてくるから、手間をかけずに済ませる方法を知っておくのはとても重要だと思います」(樋口さん)
上手に“調理を卒業する”には、自分自身で料理のハードルを上げないことも大切だ。夏山さんが言う。
「一般に、皆さんがイメージする“手料理”のハードルはかなり高い。前出の『料理に関する生活者調査』では、『市販のカット野菜を市販の合わせ調味料で味付けた料理は手作りと言える』と回答した人は54.9%。約半数が“このレベルでは手料理とはいえない”と感じているんです。
とはいえ、何種類もの野菜をすべて切って、レシピ通りに味付けまで自分ですれば、負担が大きくなるのは当然です。特に50代になれば、更年期で調子が悪い人もいるし、仕事や介護で忙しい人もいる。手間をかけすぎないように、ハードルを下げることを意識してもいいはずです」
そもそも、手料理の概念も時代とともに変化している。
「以前は『市販のルーを使った“即席カレー”は手料理ではない』と言う人もいましたが、いまは誰もそんなことは言わない。手料理が持つイメージは時代とともに変わるものです。上手にあり物を使うのは“令和の手料理”だと発想を転換してほしい。カット野菜を、合わせ調味料で炒めたものも、お総菜を自宅でお皿に盛りつけてお好みの調味料をかけたものも立派な手料理です」(夏山さん)