コロナ禍で業績が悪化した百貨店関連企業の直近の業績が復調している。それに伴い、株価も年初来高値を更新する銘柄が目立ち始めた。百貨店業界の業績が回復している要因はどこにあるのか。個人投資家・投資系YouTuberの森口亮さんが、直近の決算数字や株価の動きなどをもとに分析する。
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9月に入って、東証プライム市場で年初来高値を更新する銘柄が続出しています。9日には106銘柄、12日には148銘柄が年初来高値を更新しています。インフレや金融引き締め懸念から世界の株式市場で軟調な相場が続いている中で、日本の株式市場はかなり堅調だと見えます。
その100を超える高値更新銘柄の中で、一際目立っているのが、三越伊勢丹ホールディングス(3099)、高島屋(8233)、エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)といった百貨店関連銘柄です。
たとえば、8月1日に発表された業界最大手、高島屋の第1四半期決算を確認すると、売上高が前年同期比で14.7%増。営業損益は、前年同期が60億円の赤字だったのに対して、39億円の黒字に転換。業績予想の上方修正も行なっています。
第1四半期決算での上方修正は、3か月前に出したばかりの予想を修正するということで、株価にとってはかなりの好材料となります。修正された業績予想は、営業利益が対前年比で186.2%増と、インパクトのある数字になっています。
では、インフレや円安の影響によって、景気後退が懸念される現在において、なぜ一般消費セクターである百貨店関連株が強いのでしょうか。
水際対策にはまだまだ緩和余地
百貨店が業績・株価面で好調なのは、おもに3つの要因が考えられます。
1つ目に、新型コロナウイルス水際対策緩和の影響です。新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立を図るため、水際対策が9月7日から緩和されました。1日あたりの入国者数の上限が2万人から5万人に引き上げられ、入国時のPCR検査の陰性証明書の提出が条件付き(ワクチン3回接種済み)で免除となりました。
この水際対策緩和とともに、足元で急速に進む円安の影響も重なり、インバウンド消費が増えることが期待され、百貨店株にも大きな追い風となっています。
2つ目は、インフレの影響です。
インフレ下では物の値段が上がります。その傾向が経済指標などから明確に見え始めたのは今年に入ってからです。インフレの傾向が明らかになり始めると、将来的な影響が大きくなる高額商品が先行して買われる傾向があります。そうしたこともあり、今年に入ってから、インフレ前の需要増を見込んで百貨店関連株の上昇が本格化しています。
日本百貨店協会が公表した2022年4月の全国百貨店売上高によると、高級ブランドのバッグや靴など「身のまわり品」は前年同月比34.0%増。時計を含む「美術・宝飾・貴金属」は28.1%増となり、2022年4月時点ですでにコロナ前の水準を超えていました。