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「貧乏自慢」「お金ならある」…65才女性記者がその目で見てきた“時代とともに変わる男の金銭感覚”

「オレ、金はあるんだけどな。ここに280万ある」

 そうこうするうちに、1985年からの10年間はいわゆるバブルで、世の中、金・金・金。私も調子に乗って、新宿・歌舞伎町に編集プロダクションの事務所を構えたわけ。歌舞伎町は新大久保の方に坂を上ればラブホ街で、その麓にたまにひとりで行く寿司屋があったの。

 そこのカウンターにいた男が忘れられない。

 隣に座ったその男は、肩掛けの大きなケータイ電話を持っていた。そんなのは当時の歌舞伎町にいくらでもいて、ひと目で、不動産屋とにらんだ。私にとってはもっとも興味のない人種だったから、気のない応対をしたんだと思う。そうしたら、なんといきなり、「オレ、金はあるんだけどな。ここに280万ある」とカウンターに銀行の封筒をのっけたのよ。

「だから?」と言うと、「だからじゃなくて、金があるって話です」と1cmくらい私の方に封筒を押したかと思ったら、すぐに引っ込めた。その手つきに思わず笑っちゃってね。

「それはあなたのお金。私に無条件でくれるというなら話は別だけど、見せ金じゃ、おなか膨れません。おやじさ~ん、お勘定して~!」

 そんなことがあった直後、やっぱり歌舞伎町でナンパしてきた10才くらい年上のオジさんとお茶を飲んだの。

 聞けば、埼玉県某市のケーキ職人で、歌舞伎町に行けばいいことあるかなとお金をヘソくって、店が2連休になったので思い切って出かけてきて私を見初めたんだって。そしておずおずと、「あの、よかったらこれで私と遊んでくれますか」と、茶封筒を喫茶店のテーブル上に差し出すではないの。

「いやいや、これは」と茶封筒の上に指先を置いて、オジさんに押し戻すまでのわずかの間、指の感触で(中身は10万円? いや15万円か?)と思わぬではなかったけれど、次の瞬間、「ありがとうございます。でも、私にこのお金の価値はありませんから」と口から断り文句が出た。

 まあ、これまで交際した彼氏との間で、借りたお金を返さないくらいのことはあったけれど、売春のチャンス(?)はこのときが最初で最後だったのよね。

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