銭湯がいま、経営の岐路に立たされている──。今年7月、東京都の銭湯入浴料金が2年連続で値上がりして500円に。子ども料金も22年ぶりの値上げとなった。9月には神奈川県も追随し、都と同じ価格へ。理由は世界的なエネルギー価格の高騰だ。国内の電気・ガス代の値上げが、銭湯経営を逼迫させつつある。コロナ禍に続き、ロシア・ウクライナ戦争から始まった世界的な負の連鎖が町の小さな銭湯に押し寄せている。
東京都内の銭湯の数は、現在481軒。最盛期の昭和43(1968)年の2687軒から8割以上が廃業した。廃業が進む状況に今回の燃料高騰。そうした逆風に負けずに営業を続ける、都内の3軒の人気銭湯を追った。
台東区上野のすぐ隣、元浅草「日の出湯」。大正時代からその存在が記録される老舗で、湯は地下天然水を無濾過で沸かす正真正銘「東京産の温泉」だ。
「去年までのガス代は月平均20万円台。でも今年に入り、いきなり50万円に跳ね上がりました。夏に入っても下がりませんでした」
と嘆くのは、業界では若手の番頭・田村祐一さん(41)。10年前、廃業寸前だった日の出湯を親から引き継ぎ立て直しに挑み、毎年少しずつ黒字を出してきた。その利益も、ガス代の高騰であっという間に消えた。
「コロナ禍は常連さんのおかげでこらえられました。でもガス代の値上げ以降はずっと赤字で……」(同氏)
状況を打開するため、今夏は例年より1か月早く水風呂を張りガス代を節約した。今年の猛暑もあって好評を得たが、それも期間が限られている。
「正直、この土地を売ったほうが儲かるのではとも思います(笑)。でもそうはしたくはありません。いかに地元の人のために銭湯を残して、利用し続けてもらうか試行錯誤中です」
厳しい状況の中、日の出湯は熱い意志で今日も客を迎える。