アリババの後悔
「韓国のアマゾン」。そんな異名をとるのが、韓国ネット通販大手のクーパンだ。
ソウル市内に本社を置くクーパンは、ハーバード大学を卒業したキム・ボムソク氏が2010年に創業した。食料から衣類、日用品、電化製品など、あらゆる商品を扱う。
キム氏はアマゾンのビジネスモデルを徹底的に研究し、アマゾンが未進出だった韓国で直販体制をバックに売り上げを大きく伸ばした。
EC業界に詳しい経営・調達コンサルタントの坂口孝則氏が語る。
「『早く届ける』をとことん追求したのがクーパンです。先行投資で物流網を確保し、他社より早く商品を届ける『ロケット配送』を実装しました。夜中に注文しても翌朝商品が届く。返品手続きも迅速です。しかし、アメリカのアマゾンやウーバーイーツで問題になったように、長時間の労働形態が問題視されたこともあります」
韓国のネット通販利用人口3700万人のうち、クーパン利用者は1794万人に達する。
会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツが2020年度に直近5年間の小売企業の成長率を調べたところ、クーパンは急成長小売企業のトップになった。年平均成長率は66%で、アマゾンの21.9%を圧倒した。
「2021年12月期の売上高は前期比54%増の184億ドルでした。これは韓国の大企業であるイーマートやロッテショッピングと同規模の売り上げです」(関氏)
飛躍的な成長の背後にいたのが孫氏だ。2015年にソフトバンクは約1000億円をクーパンに出資。2018年にも追加出資を行ない、クーパンの筆頭株主になった。
「赤字になっても利益度外視でシェア拡大にかけたクーパンは、資金調達が企業戦略上の課題でした。一方の孫さんは2000年初頭のネットバブル崩壊時、小規模だったアリババを買おうと思えば買えたといわれています。その後、アリババは世界最大級の企業間電子商取引を運営するまで成長したので、孫さんには忸怩たる思いがあったのかもしれません。クーパンが第2のアリババになる可能性を読み取り、今度こそチャンスを逃したくないと出資を決意したと考えられます。実際、ソフトバンクグループ傘下のビジョン・ファンドはすでにクーパンに約2000億円も出資しているとされます」(同前)
クーパンを手中にした孫氏が虎視眈々と狙っているのが、楽天が幅を利かせる日本のEC事業だといわれている。前出の経済紙記者が語る。
「ソフトバンク傘下のZホールディングスはヤフーとLINEの経営を統合し、ファッション通販の『ZOZO』や日用品通販の『LOHACO』を持っている。大型ECを展開する下地は着実に整ってきています」