歳を取ったと感じやすいのが「目」「視力」ではないだろうか。少しずつ「近視」が進み、40を過ぎた辺りからは「老眼」に悩まされる。
深刻な「目の悩み」としてまず挙げられるのが、世界の失明原因の1位でもある「白内障」だろう。日本では60代で74.5%が発症するとされるが、症状は人によって様々。共通するのは、初期は「自覚症状がほとんどない」という点だ。眼科専門医の平松類医師(二本松眼科病院)が言う。
「最初は色合いが分かりにくくなる、読書中に文字の“鮮明度”が落ちて疲れるという感じですが、進行すると、視力が低下し、夜空の月が2~3個に見えるなどの症状が出ます。白内障の視力低下では、手元も遠くも両方見えなくなります」(平松医師。以下、「」内同)
そうした自覚症状が出ても放置すると、最悪の場合、「失明」に至るリスクがある。
初期の白内障の治療は、「目薬」で進行を予防し、経過観察を行なうが、治るわけではない。進行すると、手術で根治を目指すことになる。近年は、その技術が進歩し、治療の選択肢も広がってきている。
「日本では保険適用の『単焦点眼内レンズ』を入れる患者さんが多い。手術で眼球を切り、水晶体を超音波で砕いて吸引し、眼内レンズを入れて置き換えます。初期から中期程度の場合、手術は10~30分ほどで終わります。
さらに先進医療だった遠近両用の『多焦点眼内レンズ』が、2年前から選定療養の枠組みに入り、手術のみ保険適用となりました。多焦点眼内レンズを使った白内障の手術代の自己負担額は1割負担で1万2000円です。自費である多焦点眼内レンズ代は、片目で大体20万円程度。加えて、検査代や麻酔代、薬代などがかかります」
年齢を重ねた人でも、白内障の手術で多焦点眼内レンズを入れることで、視力が大きく回復する例が多いという。
「60~70代の方でも、術後すぐに20代の若い頃のように眼鏡なしで遠くも近くも見えるようになります。実際に、『40代の息子より見えるようになった』『10代の孫より視力がいい』という患者さんもいます。ただし、確率は非常に低いものの、手術である以上、術後感染症のリスクは残ります」
最近ではこの「多焦点眼内レンズ」はその他の眼科治療にも応用され注目を集めている。