今年7月、農林水産省は高級ブドウ「シャインマスカット」が中国に無断で持ち出され、損失が年間100億円にものぼるという試算を発表した。
シャインマスカットは茨城県つくば市にある農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が2006年に品種登録した。試験開始から登録まで33年という長い月日をかけて開発した日本が誇るブランドだ。食品の海外流出に詳しいビジネスジャーナリストの黒坂岳央氏はこう話す。
「シャインマスカットは2017年ごろから中国で広く栽培されているのが確認され、『陽光バラ』『香印翡翠』などの中国名で販売されています。シャインマスカットは国内の高級百貨店では1キロ1万円を超えるものもある高級品ですが、中国では日本の30倍以上の農地で栽培されていることもあり、1キロ400~600円ほどで安売りされ、幅広い層に浸透している。品質は国産より見劣りしますが、安さが後押ししています。中国だけでなく、韓国内でも栽培、販売されていることが確認されています」
中国に流出しているのは、シャインマスカットだけではない。今年の春節では静岡県で開発された高級イチゴ「紅ほっぺ」が人気だったという。中国の検索エンジン『百度』で検索すると、「紅ほっぺ」とみられるイチゴが売られている。
現在、日本から中国に輸出できる果実はりんごと梨のみだが、そのりんごも決して盤石というわけではない。今年8月、青森県が開発したりんご「千雪」の苗木が、中国のネット通販サイトで売られているのを青森県が確認している。「千雪」は2008年に国内で品種登録され、2015年には中国でも品種登録されている。そのため、知的財産権を管理しているセンターの許可なく栽培・販売することはできないが、中国で複数の業者が「千雪」とみられる苗木を無許可で販売していたという。
なぜ日本の果実がここまで中国に流出するのか。
「国内で長年の時間と労力をかけて開発した新品種でも、苗木を海外に持ち出せば、簡単に栽培できます。日本の果実は中国でも人気なので、作れば売れる。中国の検索サイトで『日本の新品種』という意味の中国語『日本新品○(○はのぎへんに中)』で検索すれば、花や果樹などが多くヒットしますし、現地で日本の品種を栽培したレポートなども出てきます。一部報道では年間1000億円超の被害額がでているのではないかという指摘がありましたが、決して的外れな数字ではないと思います」(黒坂氏)