地方色豊かなご当地スーパーには、普段、見たことがない食材が並びます。個性的な品揃えから掘り出し物を見つけるのは、まるで宝探し。旅先で見つけたら買わずにいられない逸品が、そこに、あった──。
仙台駅から車で約30分の温泉街に、朝から行列ができる伝説のスーパーがある。小さな食品スーパー『さいち』に並ぶ人たちのお目当ては、“おはぎ”だ。
「多い日は1日約2万個、百貨店に卸す分を合わせると、約2万4000個売ることもあります」と、現社長の佐藤浩一郎さん。お彼岸の時期には、最高で1日に2万5000個を売ったこともあるという。
最初はお客さんのリクエストで作り始めたというおはぎは、ほんのりと塩味がきいた、甘さ控えめの味わい。この絶品おはぎが口コミで評判を呼び、いまでは全国のスーパーから総菜担当者が作り方を学びにやって来るほど有名になった。
「見た目はボリューミーですが、二つくらいは一人で食べ切ってしまう方が多いです。おやつや朝食、ビールの肴にする人もいるそうです」(佐藤さん)
総菜のレシピはなし
『さいち』のもうひとつの看板商品は、昼前には売り切れてしまうという煮物。13種類もの食材を使った「五目煮(中)」は、それぞれだしの染み方が異なるため、食材別に煮てから盛り合わせる。各具材にだしがしっかりと染みているが、濃い味ではない。家庭の味なのに、家庭で食べる煮物よりも断然おいしいという絶妙な煮上がりだ。
驚くべきことに、『さいち』の総菜にはレシピがない。現社長の母で、2020年に他界した澄子さんが、自らスタッフたちにその味を教え、伝えてきたという。
感覚と舌に味を教え込まれた熟練のスタッフは、日々伝統の味を再現しているが、誰もが「まだまだです」と話す。作り手の真心がこもった手作りの総菜は、地元はもちろん、いまや全国の人が「食べたい!」と殺到する味になった。
■『主婦の店 さいち』
【住所】宮城県仙台市太白区秋保町湯元字薬師27
取材・文/番匠郁 撮影/玉井幹郎 取材協力/ショッピングアドバイザー・今野保
※女性セブン2022年10月27日号