コロナ禍からの経済再開の遅れ
もっとも、世界一の経済大国であるアメリカでは、日本以上に深刻な物価高に見舞われている。
世界経済に詳しい、リーガルコンサルティング行政書士事務所代表の浅井聡さんが分析する。
「アメリカでは昨年から物価上昇が続いており、2021年だけでも、ガソリンの33%をはじめ、ベーコン14%、牛乳8%、パン7%、電気代4%と、生活必需品が次々と高騰しています。日本の1年以上前から米国民の家計を直撃していたところに、ウクライナ危機が重なり、さらに物価高が加速。今年に入ってからもガソリンは44%、牛肉は15%など、日本よりも激しい値上げラッシュです」
アメリカから1年遅れで始まった日本の物価高は、8月の消費者物価指数では上昇率わずか2.8%と、比較的“マシ”に映る。だが飯田さんは、この「1年遅れ」は、決してプラスではないと語る。
「日本の値上げラッシュが遅れた要因の1つは、デルタ株の蔓延が遅かったから。ですが、これが経済の回復まで遅らせているともいえます。米国をはじめ海外ではマスクを外し、経済再開が本格化しているのに、日本はいまだにマスクは暗黙のルールで、経済再開の兆しがようやく見えてきた程度。
コロナ禍の中期、諸外国では“国の命令”で強制的に行動制限をしたため、経済は一時大きく落ち込んだ半面、解除と同時に回復に向かいました。一方の日本は“国からのお願い”ベース。経済の落ち込みこそ小さくても、マスクや行動制限のやめどきが、ずっと曖昧なままです。いまの日本には“空気を読む”という、解けない魔法がかかっているのです」(飯田さん)
強制されずとも律儀に要請に応じる日本人のまじめな気質が、皮肉にも世界的な流れから後れを取る原因になっているのだ。
だとすれば、日本が深刻な物価高に見舞われるのは、むしろこれから。何より、円安が止まる気配が見えてこない。マーケットバンク代表の岡山憲史さんが言う。
「これほど円安が加速した要因は、日米の金利差に加えて“コロナの世界的蔓延によるサプライチェーン(供給網)の寸断”でモノ不足が起きたこと、そして“ウクライナ戦争”によるロシアへの制裁で資源や原材料の供給が滞っていることの、2つの要因があります。金利差は、効果は薄いとはいえ為替介入などで対策を打つことができますが、コロナやウクライナの問題は、簡単に収まるものではありません」
浅井さんは、コロナ、ウクライナ、円安は、日本の物価を上げる「インフレ三重苦」だと語る。
「日銀は2013年に『物価上昇率2%』を目標に、金融緩和によって経済を上向かせる政策を打ち出しました。一方、ヨーロッパでも日本同様、物価上昇率2%を目標にした政策を取っています。しかし、ヨーロッパがすべてのモノの値段の上昇率を基準にしているのに対し、日本は外的要因で上下するガソリンや小麦などの資源価格は考慮しない。資源価格がいくら上がっても、物価上昇率に含めないのです。そのため、物価高対策は日銀にとって、喫緊の課題ではないのです」(浅井さん)
※女性セブン2022年11月3日号