【書評】『SINIC理論 過去半世紀を言い当て、来たる半世紀を予測するオムロンの未来学』/中間真一・著/日本能率協会マネジメントセンター/2530円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
エコノミストが行う予測は、平時には当たることが多いのだが、時折、軒並み外れることがある。それは、経済や社会が構造的に変化するときだ。
本書は、オムロンの創業者立石一真らが、未来のビジョンを描くために1970年に発表したSINIC(サイニック)理論を、現代の要素を加えて再構築した未来学だ。SINIC理論では、科学・技術・社会の三者が、相互に影響を及ぼしながら発展していくと考え、未来シナリオを提示する。
理論は、いまから50年以上前に、1974年からの情報化社会を予測し、2005年からは最適化社会に大転換することを見通した。すべてのモノやヒトがインターネットにつながることで社会が激変すると同時に地球環境問題や格差拡大によって、新たな制約が課される時代の到来だ。
そして、本書の最大の注目点は、わずか3年後に現在の最適化社会が自律社会へと、大転換すると見通している点だ。自律社会は、自立と連携と創造という三つの構成要素から成り立つ。
一人ひとりが、精神的にも、経済的にも、自立する。そのことが、自由な人生を送るための基本中の基本だからだ。私は、数年前から自産自消と言ってきた。食べ物も、電気も、エンターテインメントも自分で作る。そうすれば、年金給付が減ろうが、物価が上がろうが、生活が追い詰められることはない。
ただ、人間は社会的な生き物だから、孤立していたら生きられない。だから一見、自立と矛盾する「連携」が必要になる。私はそれを地産地消と呼んでいる。グローバル資本主義へのアンチテーゼだ。
そして、自律社会の最も重要な構成要素は、創造だ。今後、人工知能やロボットの発達で、定型的な仕事は、全部人工知能とロボットがやるようになる。そのとき人間の仕事は、創造的な仕事しかなくなる。私はそれを「一億総アーティスト化」と呼んでいる。すべての人が、クリエイティブな仕事をしながら、自由に生きていく。そんな時代が目の前にきている。
※週刊ポスト2022年11月4日号