田代尚機のチャイナ・リサーチ

スマホはもはや成熟産業 中国電子部品メーカーが新エネルギー自動車向けへのシフト加速

現状は売上比率2%に過ぎないが…

 立訊精密工業の業績だが、決して悪くないし、見通しも良好なままだ。2022年6月中間期業績は70%増収、22%増益であった。用途別売上高ではコンシューマーエレクトロニクス関連が全体の86%を占めており、ここが73%増収と好調である。この部門の収益の柱であるスマホはアップルとの関連強化など、既存の取引先との関係を深めることで収益を高めているが、同時にAR/VR関連など、これから需要が大きく伸びそうな分野への売り込みにも余念がない。

 しかし、最も力を入れているのは自動車関連だ。安徽省の自動車メーカーである奇瑞汽車と将来を見据えた戦略的提携関係を築き、自動車向けのケーブル、コネクター、通信ネットワーク、自動操縦に使われる各種モジュールなど、幅広く生産ラインを完備している。中間期の売上比率はまだ2%に過ぎず、売上の伸びも19%と低いままではある。しかし、新エネルギー自動車への代替が今、急速に進み始めており、今後4~5年も経てば、収益の柱の一つに育つ可能性もありそうだ。

 現状、株価は冴えないが、アナリストたちの評価は高い。今期は42%、来期は34%、再来期は25%程度の増益が市場コンセンサスとなっており、買い推奨を出しているアナリストも多い。

 他のスマホ関連メーカーも、新エネルギー自動車向けに商品提供を加速させており、研究開発にしのぎを削っている。

 イノベーションにはその時代を代表するような核となる製品があるが、過去10年のそれはスマホであった。スマホによって、人々の生活は隅々まで大きな変化が起きた。しかしスマホの成長が一段落した今、次の10年のイノベーションを代表する製品として新エネルギー自動車が台頭しつつある。

 残念なことに、この分野ではテスラを除けば先進国の自動車メーカーは、中国企業に大きな後れを取っている。特に日米欧の大手自動車メーカーはガソリン車が収益の柱である間は、中国の新興メーカーのようなガムシャラな事業展開は難しい。中国を中心に、時代は大きく変わろうとしているのかもしれない。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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