商取引の一部ではクーリング・オフといった契約を撤回できる制度もある。では、知人や友人との間で売買した場合、その取引をなかったものにできるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
引っ越しの際、同僚が手伝ってくれて古い超合金を発見。もう必要ないかと捨てようとしたら、同僚が500円で譲ってと懇願。その金額で譲渡したところ、後日、超合金が10万円以上で売買されている例を知りました。たぶん、同僚は価値を知っていたと思います。この場合、再び500円で買い戻せますか。
【回答】
売買が契約当事者の自由意思に基づくものなら、実際の価値が値段より高くても尊重されるべきであり、買い戻しの権利はありません。
それでも契約締結の基礎とすることが、示されていた事情に誤解(錯誤)があった場合、その錯誤が契約の目的や取引上の社会通念に照らして重要なときは、契約を取り消せる制度があります。ただし、売買では目的物の価値は売買契約の基礎となるのが普通であるものの、代金額は当事者が自由なリスク判断で決めることなので、代金額と実際の価値との違いは、契約取消を導くような重要な錯誤になるとは考えられないのです。
とはいえ、売買は物と代価を等価として取引されるものです。そこで等価性が著しく損なわれたときには、重要な錯誤になりえます。
以前にも、6000万円の預託金が戻されるゴルフ会員権を430万円で売却した事例に、重要な錯誤を認めた裁判例がありました。