相続を巡る制度改正が近年は相次いでいるが、今年の政府税制調査会の専門家会合でも、生前贈与を巡る“期間限定の特例”の廃止が俎上に載せられている。早ければ今年度内にも「教育資金の一括贈与の非課税特例」が終了する可能性が取り沙汰されているが、期限を迎える前に“駆け込み”で活用したほうがいいのか。専門家の見解を聞いた。
現在認められているのは、子供や孫に入学金や塾代といった教育資金に充てるものとして一括して贈与した場合、1500万円までが非課税となる特例だ。11月8日に開かれた政府税調の専門家会合では「廃止の方向での検討が適当」という意見が公表された。富裕層ばかりが制度を利用して、格差が固定化される懸念があるとされる。
「教育資金の一括贈与」や、結婚式代や出産費用などの「結婚・子育て資金の一括贈与の特例(上限1000万円)」は、2023年3月末までの時限措置だ。過去に期限を迎えた際は延長とする判断がなされてきたが、いよいよこれらの制度が使えなくなるかもしれない。延長の有無についての結論は、年内に結論が出るとみられている。
制度が使えなくなる前に、この“非課税特例”を活用しておいたほうがいいのだろうか。相次ぐ相続の制度変更について詳しく解説しているムック『週刊ポストGOLD 相続の大改正』にも登場する、相続・贈与に詳しい山本宏税理士事務所の山本宏氏は、「制度が終了する可能性は高いかもしれないが、慌てて使う必要はないのではないか」とみている。
「そもそも、節税効果が高いとは言えないうえに、制度としての使い勝手も悪くなっています。教育資金の一括贈与については、制度導入当初は、節税効果が極めて高く人気の制度でした。贈与した人が亡くなった時に一括贈与したお金を使い切っていなくても、贈与を受けた人が30歳になるまでは、原則として相続財産に持ち戻されることはありませんでした。それが、改正があったために、原則として、相続開始前3年以内の教育資金贈与の残額が相続財産に加算されるようになってしまった。特例制度としての魅力はすでに減じていると言えます。
もともと三世代の家族については、税務上は扶養義務者に優先順位がないため、祖父母が孫の生活費や教育費を援助しても贈与税がかかることはありません。つまり、教育資金にかかったという書類を残しておけば、特例を使わなくても非課税になるのです。専門家のアドバイスを受けて贈与契約書を作っておけばいいのです」
終了間際だと焦って特例制度を使おうとするのではなく、落ち着いて検討したほうがいいようだ。
ムック『週刊ポストGOLD 相続の大改正』では、山本氏をはじめとする多くの有識者が相続の制度変更について解説し、その対策をアドバイスしている。新しい制度の仕組みをしっかり理解したえで、賢く対策したい。(了)