賃上げの反応は鈍い
一方、インフレ手当には厳しい見方もある。経済ジャーナリストの森岡英樹氏が指摘する。
「手当という名称の通り、こうした企業の対応は、あくまで一時的な“緊急避難的措置”と位置付けられます。岸田政権は賃上げによる経済の好循環を目指していますが、人口減少が続いて生産性も思うように高まらない日本には潜在的なデフレリスクがつきまとい、企業の(賃上げに対する)反応は鈍いままです。
2021年度の企業申告所得は79兆4790億円と過去最高になり、内部留保は同じく2021年度の法人企業統計で516兆円超と10年連続で過去最高を更新しました。こうした事情を勘案すれば、企業はベースアップという形で従業員に還元することが可能なはずですし、それこそがインフレ対応の基本ではないでしょうか」
実際、パソコン周辺機器大手のエレコムは賃上げに舵を切ろうとしている。同社は11月から物価上昇を受けた特別手当として社員1人当たり月5000円を支給するが、2023年4月からはこの特別手当を基本給に組み込む方針で、事実上、基本給を一律1%相当引き上げるベースアップになるという。パート社員の時給も引き上げるとしており、一連の措置の対象となる社員は、合わせて約940人に上る。
深刻化する物価上昇に、岸田政権は家計支援を柱とする29兆円規模の経済対策を打ち出しているが、コロナ禍で打撃を受けた全体の景気の回復には、企業による賃上げが欠かせない。
連合は2023年の春闘で月給の3%程度のベースアップを求める方針だが、賃上げ幅が物価上昇率に追い付くことができなければ、家計の逼迫は続くことになる。
「インフレ手当」支給を始めた各企業の個別の努力が継続的な賃上げへとつながるか。企業の動向を注視する必要がある。
※週刊ポスト2022年12月2日号