「粉飾に関わっていなかった」という理由で社内昇格した室町正志氏、綱川智氏は、それぞれ思惑が異なる経産省や投資ファンドとの利害調整に追われ、その後を受けた銀行、投資ファンド出身の車谷暢昭氏は、外部から招聘されて東芝を立て直して経団連会長になった石坂泰三氏、土光敏夫氏に自らを準えたが、かつて自分が在籍していた投資ファンドに東芝を売却しようとして批判を浴び、辞任に追い込まれた。
現社長の島田太郎氏はこの車谷氏が社長時代に「DX(デジタルトランスフォーメーション)の専門家」として招き入れた人物である。鈍重な重電メーカーからソフトウエアの会社に変身した独シーメンスで同社のDXに立ち会った経験を買われての東芝入りだったが、外資に20年近く身を置いただけあって社内遊泳術に長け、車谷氏の降板で真空状態になった東芝で社長の座を射止めた。
経産省や投資ファンドとの連絡役はそつなくこなすが、稲盛氏のような経営哲学があるわけでもゴーン氏のような剛腕があるわけでもない。遊泳術だけが取り柄の人物に立て直せるほど、東芝の病状は軽くない。
(第2回につづく)
【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。日本経済新聞編集員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年に独立。『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)など著書多数。
※週刊ポスト2022年12月2日号