一方で、一時取り沙汰された娘や娘婿が後継者となることは考えにくいと森岡氏は続ける。
「長女はゴールドマン・サックスに入社し、同僚と結婚。後継者候補とも囁かれましたが、投資事業がメイン業務となったSBGは企業としてのフェーズが変わった。娘や娘婿に後を継がせる可能性は低いでしょう」
背景にはSBGを取り巻く厳しい経営環境がある。2023年3月期第1四半期、SBGは3.2兆円という巨額の最終赤字を計上。最大の要因は投資部門の不振だった。
2022年8月の決算発表会で孫氏は『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』の運営コストを大幅に削減する方針を示し、その後、虎の子とされた中国のテクノロジー企業・アリババの株を売却した。月刊誌『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。
「ベンチャーが冬の時代に入り、攻めの経営ができないと踏んだ孫さんは、守りを固めるため後藤さんに白羽の矢を立てた。孫さん自身は傘下にある半導体設計大手『アーム』の事業に専念するつもりです。冬の時代が終わって市況が好転すれば、後継者問題を含めてまた新たな動きがあるはず。ただ、今後誰が後継になろうとも、経営のキーマンになるのは数字を知り尽くす後藤氏でしょうね」
経済ジャーナリストの有森隆氏もこう話す。
「苦境の孫さんにとって、“軍師”笠井さんの流れを汲む後藤さんは一縷の望みなのです」
孫氏を一喝できる「財務の鬼」はSBGの未来を担えるか。
(了。前編から読む)
※週刊ポスト2022年12月9日号