「目に入れても痛くない」とはよくいうが、いまの祖父母にとって孫はどうやら「痛い」存在に変わりつつあるのかもしれない──。最初は楽しかった「孫育て」も、いつからか感謝はなくなり、要求をエスカレートされる人も……。「孫家族」に悩む高齢者たちの声を聞いた。
シルバーウイークに組み込まれて気づかなかった人も多いようだが、9月19日は「敬老の日」だった。その一日をめぐって、シニア世代で正反対の声が上がる。埼玉県に住む原田玲子さん(仮名・72才)が話す。
「隣県に住む長男一家が幼稚園児の孫2人を連れてきました。しかもお嫁さんが気を回して“お義母さんは何もしなくていいから”って、ケータリングを頼んでくれたんです。豪華なお料理を食べながら、孫を交えてのおしゃべりに花が咲きました。はやりのマッサージ器具『マッサージガン』までプレゼントしてもらい、思い出すだけで笑みがこぼれます」
一方、大阪府に住む植田真紀子さん(仮名・75才)は憎々しげに言う。
「海外で事業をしていた娘の夫がコロナで失業し、1年ほど前から娘一家と同居しています。娘夫婦はアルバイトで働きづめのため、食事や洗濯、掃除などはすべて私の担当。2人いる小学生の孫の面倒も見ています。
私は夫に先立たれているし、子供のピンチに少しでも協力したいと思って田舎からやってきました。それだけに、『敬老の日』はねぎらってもらえるかと思ったら、私だけ置いて“3連休だから”と温泉旅行へ。私はいったい何なんだ、と怒りを通り越して虚しくなりました」
以前に比べ共働き世帯が増えている。今年の「男女共同参画白書」によると、2021年の共働き世帯は1177万世帯。1985年は718万世帯だったので、この約40年で1.5倍以上になったことがわかる。植田さんのように「孫家族」に悩む高齢者が増えていることと無関係とはいえないだろう。
昨今は平均寿命が延びて元気な高齢者が増えていることもあり、子育てに祖父母の力が期待される風潮が強くなっている。だが、協力を求められる側の祖父母にも、生活を変えられてしまう戸惑いがある。これを「孫ブルー」と名付けたのは教育コンサルタントの河村都さんだ。
「孫とのつきあい方は最初が肝心です。孫ができた喜びでわれを失いがちですが、そこで距離感を間違えると大変なことになる。孫のために、いろいろやってあげたい気持ちはわかりますが、その行為が一生できるものだろうかと自問してほしい。無理をすれば、自分の疲れと重なってすごくマイナスなものになっていってしまいます」
孫のかわいさに心奪われるばかりでなく、自分の生活もきっちり守っていく決意が必要なのだ。