デジタルに疎い娘は「シニア向け」が分からない
ところが、これが思いのほか手間取った。私がシニア向けスマホを選んでしまったからである。ガラケーからの乗り換えキャンペーンを利用して、端末代金が約3万円程度というので、オトクに思えた。なにより「シニア向け」。この文言だけで年寄りが使いやすいものなのだろう、と即決してしまった。通信費が少し高くなったのは痛いが、母が少しでも元気になってくれれば、という思いのほうが勝った。大好きな花の写真を撮って何かのサイトに投稿したり、ネットショッピングも楽しんでくれたらなあ、など期待は膨らむ一方!
たしかにアイコンが見やすい。お年寄りに便利な機能もついているようだ。が、スマホ初心者で超アナログ人間の母は、基本の使い方すら分からない。「アプリって何? ダウンロードっておいしいの?」レベルである。説明書がついてはいるが、母は読む気力などない。そして私もデジタル機器に疎い——。使い方を教えようと頑張るものの、自分のスマホとは違う画面に「???」が飛び交うことになったのだった。
結局私たち親子は、「シニア向け」の利便性まで到達せず、ひたすら未知の家電として、基本の部分で四苦八苦することに。最低限の通話やLINEは使えるようになったものの、様々な通知エラーが表示されるたびアワアワ。すぐに対処できない。
母に細かく聞かれたら、私も最初こそアレコレいじったり説明書を調べたりしたが、次第に面倒臭くなり放置することが増えた。それでも何度も聞かれるとイライラ。スマホが原因で、どんより気まずい空気がリビングを覆ったことも一度や二度ではない。
「少々お高くても自分と同じ機種のスマホにしておけばよかった……」と大後悔した。
私と同じような人が多かったのだろうか。2020年のある日、流れてきたNTTドコモによるiPhoneのCMはまさにそのまま、「シニアへの教えやすさ」がテーマであった。俳優の國村隼さんが「スマホデビューした」と笑顔でiPhoneを手にしている。そして「iPhoneにしてよかった。だって聞きやすい」。彼の娘夫婦がそれを微笑ましく見守っている。そして娘は答えるのだ。
「iPhoneにしてくれてよかった。だって教えやすい」
カーッ! 買う前にこのCMが流れていれば……。いや、高いしなあ。いやいやそれでもこのCMと同じよう母も私と同じiPhoneにしていれば、こんなに和やかなスマホライフが送れたのだろうか。いろんな思いが交錯し、テレビ画面の前でうなだれた。