それでも母の「スマホデビュー」に救われた
もちろん、スマホに変えたことは後悔ばかりではない。ガラケーよりも画面が大きいので操作しやすく、ビデオ通話、スピーカー機能で交流がラクになったようだ。
なにより「スマホを持った」ことが、母には大きな自信となった。それまで塞いでいた母が、姉家族とのビデオ通話だけでなく、お友達への連絡を復活させたのである。
「スマホに変えたのよ。元気かしらと思って掛けてみた。マスク足りてる?」
「スマホ、難しいわあ」
スマホデビューをネタに、話し声がリビングによく響くようになってきた。お友達は家族の私と違ってやさしいもので、それなりに褒めてくれる。これもよかった。
いやはやホッとした。母より、むしろ私が救われた。キツキツの狭い箱に閉じ込められていたような圧迫感、肩にのしかかっていた責任感を、電話の向こうのお友達が少し軽くしてくれた気がしたのだ。新しい機器を手にするという興奮。そして、家族以外のコミュニティのありがたさを痛感した。
子も親も「ストレスがかからない家電選び」が必要
デジタル機器やネットは場所の遠さをあっさりとクリアしてくれる。しかし同時に、使いこなせない場合、イライラが募ったり、劣等感を抱いたりすることもある。
事実、まだまだスマホと母の“仁義なき戦い”は続いている。銀行アプリへの移行、マイナポイント取得、電子決済(ペイペイ)など、母のスマホでどうすればいいかわからない。私も「一度一緒にショップに聞きに行こう」と言いはするが、ついつい後回しだ。デジタルに詳しければ、きっとシニア向けスマホも機能をじゅうぶん教えられていたはず、という罪悪感ばかりが膨らんでいく。やればいいのに、苦手意識が勝ってなかなか実行に移せない。