政府が年金保険料の負担増に動き出した。社会保障審議会年金部会などで議論がスタートしたのが、自営業者らが加入する国民年金の納付期間を現行の「60歳まで」から「65歳まで」へと5年延長する案だ。2023年以降に議論を詰め、2024年に控える5年に一度の年金財政検証で具体化させていくとみられている。“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「2004年の年金改正で導入されたのが、少しずつ年金支給額を目減りさせていく“マクロ経済スライド”という制度です。国民年金の保険料納付期間を5年間延ばすと、それにより将来の年金受給額は増えることになるので、マクロ経済スライドで目減りした分を補填できていいだろう、というのが政府側の理屈なのでしょう」
ただ、2022年の国民年金保険料は月額1万6590円。その納付期間が5年間延長されるとなると、約100万円の負担増になる。
「現行制度に沿って考えると、5年間保険料を払うことで将来の年金額は年10万円程度増えると考えられ、10年ほどで元が取れる計算にはなります。ただし、マクロ経済スライドで受給額は減らされていくし、物価や賃金が上昇すれば保険料額が上がっていくので、厳しい制度変更にはなる。
それなりの移行期間が設けられると考えられますが、40代や50代前半の自営業者への影響は大きいでしょう。また、会社員だった人も60歳で退職した場合は、これまで払う必要のなかった国民年金保険料を5年間払う必要が出てくる。さらに、妻が専業主婦の場合、保険料を払わずに国民年金の加入期間としてカウントされる第3号被保険者から外れるため、同い年の夫婦なら60~65歳で2人分の約200万円の保険料負担増となるのです」(北村氏)
また、来る年金改正ではサラリーマンが加入する厚生年金についても、これまでの70歳という加入年齢上限が75歳に引き上げられる可能性がある。こちらは、生涯現役を目指す高齢会社員の給料から保険料を5年長く天引きしようという話だ。
さらには会社員の妻が一定以下の収入などの場合に該当した第3号被保険者についても、縮小が議論されている。
年金財政が逼迫するなかで、幅広い年代の負担を増やしていこうとする政府の意図が鮮明になってきた。
「とりわけ深刻な問題に直面するのは、まだ年金受給が始まっていない現役世代になります。人生設計の大幅な見直しを迫られることでしょう。60歳で引退なんてとんでもないことで、65歳、70歳まで働くことを前提に、今からライフプランを組み立てていくことが求められます」(北村氏)
年金保険料負担増はもう避けられそうにない。今のうちから老後資金の備えを考えておきたい。
※週刊ポスト2022年12月23日号