車を見てもらうなら「手っ取り早い」
実際、ある週末、栃木から渋谷に車でやってきたBさん(20代男性)に話を聞くことができた。
「田舎なので、大前提として車保有はマスト。親用と自分用の2台持ちも当たり前で、自分の車だと好きにカスタマイズできます。しかも他にやることがないので、車にこだわる時間がたっぷりある。こだわったら、それで走りたいし、誰かに見てほしくなるものです。これまでも、同じ車の人たちで集まる“友の会”みたいなものはあったんですが、渋谷だと特に車好きじゃない人たちにも見てもらえる。それが楽しいんですよね」(Bさん)
Bさんに、なぜお台場や銀座、浅草といった東京の“名所”ではなく、渋谷なのか聞いてみた。
「渋谷は駅を中心にしてスクランブル交差点があり、人が集まっている場所がわかりやすいんです。スクランブル交差点は信号なので、絶対に人が“たまる”じゃないですか。だから、そこらへんを走っていれば、一度で多くの人に注目してもらえる。他の場所だと、見てもらうために結構ウロウロしなくちゃいけない。注目してもらうためには、手っ取り早いんです。あと、渋谷には、自分と似たような人たちがたくさん集まってくるので、その仲間意識のようなものもあるかもしれません」(Bさん)
そんなBさんは、自身もキャラクターのフード付きパーカーをかぶったり、リアガラスにデコレーションをするなど、通行人たちに“見てもらう”意識も高い。
渋谷に買い物に来ているわけではない
「渋谷には、集まりに行ってるようなもの」というのは、静岡出身で、昨年から都内在住のフリーター・Cさん(20代)だ。静岡にいたころ、渋谷に車で走りに来たことがあったという。
「渋谷に何しに行くかと言われたら、“走りに行く目的地”というだけですね。別に車を停めて何か買い物をするわけでもありませんし、風景を楽しむわけでもない。ただ、今思えば、人がたくさんいて、夜中でも明かりがついている街を実感することで、孤独感が少し払拭されていた気はします。田舎にいたら、息が詰まる感じがするけど……。だからハロウィンみたいなイベントのときに、若者が渋谷に集まるのは、わかる気はします。田舎には、あり余るエネルギーをぶつける場所がないというか……」(Cさん)
地方からやってくる若者にとって、渋谷にしかない、そして渋谷でなければならない事情があるのかもしれない。(了)