大学受験を考える高校生のなかには、塾に通っている、あるいは通いたいと考えている人も少なくないだろう。文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、学習塾費の金額分布で「0円」だったのは、公立高校で66.8%、私立高校で61.7%。そこから逆算すれば、全国の3~4割の高校生が何らかのかたちで塾に通っているという実態が浮かび上がる。もちろんそこには地域差もあるわけで、特に東京であればその選択肢は多く、塾通いする高校生は珍しい存在ではない。
塾に通う表向きの目的はもちろん「勉強ができるようになるため」、あるいは「受験に合格するため」だろうが、実際には「もっと消極的な動機だった」という声も少なくないようだ。東京の高校に通い、塾に通った経験がある人たちに、その理由やきっかけを聞いた。
部活の延長線上みたいな感覚
20代男性・Aさん(IT企業勤務)は、中堅都立校から一浪を経て都内の難関私立大学に進学した。大学受験に挑む際、早くから学校の勉強だけでは無理だと感じていた。
「高校では文系と理系でクラスが分けられましたが、国立大志望者と私大志望者が同じクラスで、国立優先の対策。教師は年配の教師ばかりでクセが強く、わからない部分があっても質問に行ける雰囲気ではありませんでした。同級生も、全員が大学を目指すというわけではなく、専門学校に行きたいという人もいたので、受験に対する温度感は人によって違ったように思います」(Aさん)
Aさんが通っていた高校では、大学受験を終えた卒業生が受験対策をテーマに講演し、在校生の質問に答えるというイベントがあった。
「ほとんどの先輩は塾との併用で、『学校の勉強だけでは足りない』、なんなら『受験用の勉強と学校の勉強は別』と言い切る人も。なかには授業中に“内職”していたことを堂々と明かす人もいました。そういう話をされると、塾はもはや大学受験において“マスト”だと感じました。しかも『合格した人が通っていた塾に行っておけば間違いない』という安易な考えに寄ってしまい、その塾に同じ高校の同級生が固まりがちでした。
志望校に受かるためというより、部活の延長線上みたいな感覚です。塾に“行っている”だけで合格するわけもないのに、もはや仲間に会うために塾に行く、という感じでした。現役で不合格になるのは当然で、僕も浪人を覚悟していました。浪人してからは、生活のリズムを作るために、別の予備校に通いました」(Aさん)
そんなAさんに塾の意義を問うと、「生活の管理が自分でできない人が行くところ」という答えが返ってきた。塾通いにあまりいい思い出はないようだ。