この仕事は「時代を映す鏡のようなもの」
この間わずか10分。乗客が降りてからではなく、列車が到着してからの時間なので、ドレッサーたちの実質的な作業時間は8分ほどだ。
「ひと通り仕事を覚えるのに1年はかかりました。仕事の全体的な流れを俯瞰できて、困っている後輩に目を配り、作業の効率にまで気が回るようになるまでにはさらに2年の年月が必要でした。時間の限られるなか、何がベストなのかは今でも最善を考えながら仕事しています」
こう語る勤続10年の赤坂真美チーフは、「この仕事は時代を映す鏡のようなものです」という。
「私が入社してからの実感ですと、新聞や雑誌といった紙媒体が車内に残されるケースは、かなり減った印象があります。そういう情報はネットでご覧になるからなのか、見かけることが少なくなりました。その一方で、最近はUSBケーブルなど、スマホやPCなど周辺機器の忘れ物が多くなってきています。
コロナ禍でガラガラの車内を見た時には、それでも公共交通機関に関わる者として、何があってもこれまで通り仕事を続けなければ、と身の引き締まる思いでした」
1チーム36人体制となったのは、2022年。作業の効率化を図り、44人体制からさらに人員を絞り込んだ結果の体制だ。こうした絶え間ない改善の繰り返しが、快適な車内空間の提供に結びついている。
海外からの観光客も徐々に増え、賑わいを取り戻しつつある日本。世界に誇る“おもてなし文化”の担い手として、ドレッサーたちは今日も東京駅で乗客を出迎える。
取材・文/小野雅彦 撮影/内海裕之