問題山積、あまりにも不透明
もう1つの大きい問題は、太陽光パネルの設置義務を負うのが住宅の施主や購入者ではなく、大手住宅メーカーということだ。つまり、補助金は施主や購入者ではなく業者に支給し、施主や購入者に還元させる仕組みなのである。
これはやはり業者に支給されているガソリン・電気・ガス料金を抑制するための国の補助金と同じく、消費者が補助金の恩恵を100%享受できるわけではないので、何か利権が絡んでいるのではないかと勘繰りたくもなる。それに、いくら補助金があっても太陽光パネルの設置義務化による新築住宅の値上がりは避けられないだろう。今どき都内で新築住宅を購入できる人は少ないという問題もある。
太陽光パネルの設置義務は大手住宅メーカーではなく施主や購入者に負わせ、そのコストを補助金で軽減するのが筋だと思う。たとえば、東京電力は「初期費用ゼロ」の太陽光発電システムを提供しているので、新築住宅に限らず、それを導入した場合はランニングコストを減額すればよい。今回、東京都は「住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」を新設したが、その助成対象も住宅所有者ではなく業者なので、これまた実に胡散くさい。
新築住宅ではなく、東京都が所有している広大な空き地に太陽光や風力の発電施設を建設して電力会社のバックアップをつくったり、ブロックごとにそういう施設を設置したりしたほうが、恩恵を受ける人は多くなる。
以上を踏まえると、新築住宅を対象とした太陽光パネル設置義務化は極めて問題が多い不透明な政策と言わざるを得ない。もし、CO2対策や停電対策でやるなら、全都民が対象の高断熱窓・高断熱ドアへの改修補助金を拡充したほうが手っ取り早いし、公平だろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2023年2月10・17日号