2022年、岸田文雄首相は国政選挙がない「黄金の3年間」を獲得したものの、政権支持率は下落の一途をたどった。経営コンサルタントの大前研一氏は「2023年中に岸田首相の退陣も考えらえる」と言う。そうしたなかで、低迷する日本を反転させるためにはどんな改革が必要なのか、大前氏が提言する。
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『週刊ポスト』2023年1月1・6日号の「2023年大予測」では、岸田文雄首相は今後も内閣支持率が低迷して自民党内の求心力を失っていけば、今年5月の広島サミットを花道に退任する可能性もある、と述べた。もしそうなったら、次の首相には「聞く力」ではなく「突破する力」で大改革を断行し、低迷する日本を反転させてもらいたい。年初にあたり、そのために不可欠な重要政策を提案する。
まず、これだけは絶対に直してほしいのが、衆議院議員選挙の「小選挙区制」である。当時の新生党代表幹事・小沢一郎氏と公明党書記長・市川雄一氏の“一・一ライン”が主導し、それまでの1選挙区から複数人を選ぶ中選挙区制に代わって1選挙区から1人を選ぶ小選挙区制が1996年から導入された(正確には、小政党に配慮した比例代表制を組み合わせた「小選挙区比例代表並立制」)。
しかし、4半世紀経った今日振り返ると、その弊害は実に甚大だ。人口25万~50万人の“おらが村(選挙区)”への我田引水しか考えない小粒な議員ばかりになってしまったのである。
たとえば、横浜市には8区あるので、各衆議院議員の選挙区の人口は市長の約8分の1でしかない。あるいは、次回の衆院選から適用される小選挙区の「10増10減」の区割り変更で東京23区の衆議院議員は17人から21人に増える。区長とほぼ同じ人数になるわけだが、人口が多い世田谷区、練馬区、大田区などは定数2なので、選挙区の人口は区長の半分くらいだ。これでは“おらが村”以外のことを考えられるはずがない。
さらに、現行制度には小選挙区で落選した候補者が「惜敗率」によって比例復活するという歪みもある。
だが、今こそ政治家は外交、安全保障、環境などの「天下国家」だけでなく、「地球規模」の問題を論じなければならない時代である。また、先進国の中で唯一、30年間も給料が上がっていない日本をどのようにして大改造し、「サイバー&AI(人工知能)革命」の「第4の波」を乗り切るか、ということが問われている。
にもかかわらず、そういう問題に関する政策論争はほとんどない。このお粗末な現状を打破するためには、「百害あって一利なし」の小選挙区制を撤廃し、天下国家を論じられる国会議員をつくる選挙制度に変えなければならない。
ただし、以前の中選挙区制に戻すと同じ選挙区に自民党が派閥単位で複数の候補者を擁立し、「血で血を洗う」と言われた党内抗争が再発することになるので避けるべきだろう。となると、国家・地球レベルの問題を議論できるようにするための選択肢は1つしかない。「大選挙区制」である。