岸田文雄・首相は、通常国会冒頭の施政方針演説で「リスキリング(学び直し)による能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って加速します」と語った。この“労働市場改革”について経済アナリストの森永卓郎・獨協大学経済学部教授が指摘する。
「一部の大企業で大幅賃上げの発表が続いている本当の狙いはこの改革です。企業に賃上げを言ってもらうかわりに、政府は財界が要望してきた労働市場改革を進めて、企業が中高年社員のクビ切りや賃下げをしやすくして、退職金や企業年金も縮小し、なくしていこうということです」
労働市場改革でサラリーマンの給料体系が抜本的に変わる。「日本型職務給」への転換だ。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語る。
「これまでの日本企業の賃金は、職能給と言われ、やっている仕事にかかわらず勤続年数が長いほど基本的に給料がアップする。若い時に安く働いてもらって、40歳過ぎにその分多く支払ってもらうというのが、年功型賃金の経済学的説明です。これに対して欧米で主流の職務給はジョブ型賃金とも呼ばれ、年齢に関係なく仕事の内容で報酬が決まる。職務と関係ない家族手当や住宅手当などもない。
日本企業で職務給が導入されると、若手社員の給料は上がるが、多くもらっている中高年社員の賃金水準は当然下がる。中高年にすれば、若手の頃は安い給料で我慢させられたのに、ようやく給料が上がる年齢になって、今度は職務給にするから賃下げという事態に直面することになる」
大幅賃上げを発表した企業には、賃金体系をジョブ型に転換するケースが多い。
「年収7%アップ」の賃上げを行なったロート製薬も年齢給を廃止し、「職務給」を導入。同社の杉本雅史・社長がインタビューでこう語っている。
「年齢給がなくなることで、一部の社員には給与水準が下がるケースが生じる。そこで移行期における減少分は補填する形にして、不利益変更にならないように意識した。ただ2年間の時限措置とし、本人に一つ上の職務レベルで仕事を担う覚悟を持って昇格に挑戦してもらうことを期待している」(12月19日付、日本経済新聞)