相続人となる家族がいない「おひとりさま」の相続で、遺産が「国庫帰属財産」として国庫に入れられてしまうケースが急増している。かつてこんなケースがあった。
岩手県盛岡市に住む大平吉郎さんは2014年3月に92歳で亡くなった。大平さんは盛岡市の中心部などに多くの土地を所有する大地主で、その遺産について朝日新聞が詳報した〈「国には渡さない」語っていたのに〉(1月23日付)によれば、不動産の評価額は約7億円。銀行口座には約5億円の現金と自宅の土蔵から約8億円の現金と宝飾品が見つかり、遺産総額は20億円に達した。
ただし、大平さんには配偶者も子供もおらず、同居する未婚の姉は先に亡くなっていた。つまり、法定相続人がいなかった。そのため、大平さんの死後、交流のあった不動産業者や縁戚、雪かきなど身の回りを手伝ったという近隣住人などが、相続人がいない場合に遺産を受け継ぐ「特別縁故者」に名乗りを上げた。
しかし、仙台高裁はわずかな金額の相続分与しか認めず、20億円の遺産のほとんどが国庫に入ることとなった──。
問題は、遺産が国庫に入ることを大平さんが望んでいなかったことだ。生前に大平さんから遺産整理の相談を受けていた行政書士の露崎二三男氏が語る。
「土地家屋調査士の仕事をする関係で、大平さんとは昔から付き合いがありました。2011年ごろに大平さんから頼まれて財産整理を手伝うようになりましたが、彼は役所が嫌いで、『遺産が国のものになるのは嫌だ』といつも口にしていました」
莫大な遺産の使い道について、大平さんには構想があったという。
「遺産で財団法人を設立し、財産を管理させることを大平さんは望んでいました。そして、立派な邸宅や自宅の庭園、お姉さんが所有していた絵画などを一般公開したかったようです。また、母校の早稲田大学へ奨学金の寄付も望んでいました」(露崎氏)