だが大平さんの希望は叶わず、それどころか思わぬ事態が生じた。
「裁判所から選任された弁護士が財産管理人になり、国庫に返納するために遺産を次々と現金化しました。大平さんは多くの土地を貸しており、借地人とは昔からの信頼関係で安い地代にしていたのですが、その信頼関係も壊され……。大平さんが一般公開を望んでいた自宅も取り壊され、本人の意思に背く財産処分になったことがつくづく無念です」(露崎氏)
財産管理人が不動産会社に土地を売却したため、借地人が相次いで立ち退きを迫られることに。なかには、係争中のケースもあるという。こうした事態を招いたのは、大平さんが遺言書を作成しなかったためだ。
「大平さんと相談して、2012年8月に財団設立などを盛り込んだ遺言書案を作りました。しかし、『95歳になったら署名押印する』と言って遺言書を完成させなかった。それから1年半後に大平さんは92歳で亡くなりました」(露崎氏)
亡くなる前に正式な遺言書を書いておけば……と露崎氏は肩を落とす。
※週刊ポスト2023年2月24日号