飲食店などでの迷惑行為を撮影した動画がSNSで拡散し、騒動になっている。65才を迎えた『女性セブン』名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんは、これらの騒動を見て、「昔だったらこんなに騒動になっていただろうか」と考える。昭和と令和の時代背景の違いとスシロー騒動の後味の悪さについて、オバ記者が綴る。
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バブル前夜、私が大手企業の女性社員から職場のグチを聞いて記事を書いていた頃のこと。「花のOL(オフィス・レディ)」とかいわれていても、あくまで女性は男性のアシスタントで、女性の業務の1つに「お茶くみ」というのがあったの。朝、課の男性社員全員にお茶を出すわけ。午後3時にもお茶を出して、このときは到来物のお茶菓子があればつけたりつけなかったり。そのときの取材でよく出てきたストレス解消法が「上司に出すお茶にツバを入れる」って話。
「ムカつく課長の湯飲みは、雑巾でていねいに拭いてやります」と言った有名企業の女性社員の顔はいまだに覚えている。
セクハラもパワハラも問題にならない時代で、上司も上司。25才を過ぎると「寿退社、おめでとう!」とみんなの前で言って、売れ残り(ひどい言葉!)は退職しろと言わんばかり。それでも頑張っていると、「お茶、ぬるいんだよッ」と何度も淹れ直させられたとか。そのたびに給湯室で泣いて悔しがっていたある日、ふと目についた上司の湯飲みと雑巾……。
前置きが長くなったけれど、もしこれを令和のいま、動画で拡散したらどうなるか。当の女性社員の解雇だけではすまないよね。大会社の株価はダダ下がり、もしかしたら日本経済の重大な危機になる!?
もっとも、大手企業の女性社員は自分の“悪事”の証拠を残したりしないし、雑巾は流し台を拭く程度だから湯飲みににおいは残らない。あくまでも自分の気持ちが収まればいいだけのこと。もし動画を撮ったところで、ひとりで眺めてニヤニヤしてオシマイだったと思う。
そして、女性社員の恨みのこもったお茶をうまそうにすすった上司も、「見ぬもの清し」なんだよね。「オレもお茶にツバ入れられているかも」と笑っていたというし。思うに、長く生きていれば、誰だって「見ぬもの清し」と言いたくなるような出来事に出会うんじゃないかしら。