酒粕を利用した粕酢づくりに挑戦した初代への尊敬を込め、代々の当主が「又左衛門」を襲名するなど、何より伝統を重んじてきた創業家にとって婿殿の“反乱”は想定外だったのかもしれない。「味ぽん」で有名な老舗食品メーカー「ミツカン」のオーナー一族に浮上したお家騒動とは──。
「今回の判決は到底納得できるものではなく、控訴して徹底的に戦います」。2月10日、記者会見でこう語ったのは、大手食品メーカー「ミツカン」の創業家一族の元婿養子である中埜大輔氏。創業200年以上の超有名企業で現在、前代未聞のお家騒動が起きているという。
「ミツカンに婿養子として迎えられた大輔氏が、違法なやり方で離婚を強要され、幼い一人息子と引き離されたことで精神的苦痛を受けたとして、慰謝料3000万円を求め、元妻やその家族を訴えていたのです。2019年の提訴から約4年にわたった裁判がこの日判決を迎えたのですが、大輔氏の請求は棄却され敗訴となりました」(司法担当記者)
「味ぽん」などで有名なミツカングループの売上高は約2400億円(2021年度)。国内外の工場や営業拠点に勤務する社員は約3800人にのぼる。
「食酢のシェアは家庭用で7割、業務用でも5割といわれており、業界のトップに君臨しています。また、ミツカンでは代々、創業家一族の中埜家の当主が経営の舵取りを担っており、同族経営の非上場企業です」(経済部記者)
中埜家は莫大な資産を誇る。代々の当主の自宅がある愛知県半田市の土地は総面積1万7000平米以上。敷地内には地下室やプール、茶室も併設された邸宅のほかに複数の蔵が建つ。
「2006年まで公開されていた高額納税者ランキングには、半田市の上位に中埜一族がずらりと並んでいます。ちなみに1999年の前会長の納税額は約8億5000万円で、これは愛知県のトップ。全国でも6番目に高額でした」(前出・経済部記者)
そんな中埜家が長年抱えていたのが跡継ぎ問題だ。
「前会長の和英氏(昨年8月死去)と妻で現在会長を務める美和氏の間には、娘さんが2人います。長女の裕子氏(現社長)と次女の聖子氏(現副社長)です。中埜家、及び会社にとって、娘の婿取りは一大事でした。当時は、ある幹部が中心となってプロジェクトチームが結成され、婿探しが行われていました」(ミツカンOB)