60歳で定年退職した後の生き方を綴った『定年後』などの著書があるライフ&キャリア研究家の楠木新さん(68歳)は、定年の後に「75歳」という大きな節目が待ち構えていると指摘する。そんな楠木さんは、新著『75歳からの生き方ノート』の中で、エンディングノートに代わる「リ・スターティングノート」を提案する。そこに何をどう記すべきなのか、解説する。
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現在、高齢期の生活については、食事や栄養にも留意して適度な運動を行うといった身体的な健康維持に重点が置かれています。また若さを保つことが強調されて、老いることを食い止めるアンチエイジングの対応もよく取り上げられます。そこでは、できるだけ長く生きることが目標になっています。
それも大事ですが、私はむしろ延ばしてきた寿命の中身をどのように充実させるかに注力すべきだと思うのです。身体的な健康や見た目を若返らせることが目標になると、どうしても老いることを軽視しがちになります。
最も大切なことは、老いていくことに新たな価値を見出す姿勢ではないでしょうか。できないことが増えるにしても、できることを楽しむ、自分が持っていないものではなく、持っているものを好きになる。こういう態度こそが健やかに楽しく暮らすことにつながるという感触を持っています。
年齢の幅が数十歳もあるというのに、高齢者を一律にとらえていることにも違和感があります。68歳の私と91歳の母親は、同じ高齢者といっても、活動できる範囲や周りからの援助の有無、欲しているものも全く異なります。加齢に応じた過ごし方の変化があることを前提に、どう生きるかを考えるべきでしょう。
統計的なデータによれば、人は概ね75歳前後から、医学的、経済的、社会的に人生のステージが大きく変わります。心身の衰えにより、徐々に自立して行動することが困難になってくるからです。お金があっても有効に使えなくなり、脳の衰えによってお金の管理もできなくなる可能性があります。仕事も限定的になり、人間関係も希薄になることは避けられません。
そして、その時代をどう生きるかについて考えておくことは、定年後をどう生きるかを考えておくことと同じくらい、重要な課題となっているでしょう。
人生を最後まで豊かに生き抜くためには、自分自身が元気なうちに「75歳からの生き方」を考えておき、できればノートなどに記しておきたいものです。私自身はそれを人生の「リ・スターティングノート」として、生涯、活用したいと考えています。