「異次元の少子化対策」と繰り返す岸田文雄・首相。「わが国の社会経済の存立基盤を揺るがす、待ったなしの課題だ」と息巻くが、行き当たりばったりの選挙対策で私たちの社会保障を脅かそうとしている。
政府が「異次元の少子化対策」の「叩き台」として打ち出したのは、
【1】児童手当の所得制限撤廃、支給期間を高校卒業まで延長
【2】出産費用の補助拡大、公的保険適用を検討
【3】大学生などへの給付型奨学金の対象拡大
【4】男女とも育児休業給付を10割支給
【5】保育士の増員
──などが柱となっている。
社会保障論が専門の経済学者、鈴木亘・学習院大学経済学部教授は効果が薄いとみている。
「少子化は年金など社会保障制度の維持や、日本の経済成長にとって重要な問題です。今回政府があれだけ多くのメニューを並べたことで、国民から見れば、“やってくれる感”は感じるでしょう。しかし、内容を見ると、これまで俎上にのせていた対策を総花的に並べたにすぎない。まるで“竹槍”で戦闘機に立ち向かうようなもので、肝心な出生数の増加につながるかは覚束なく、とても心配しています」
なぜ、効果がない“竹槍政策”なのか。まず少子化対策の目玉である児童手当の増額について、鈴木氏はこう語る。
「経済学の観点でいえば、出産とは夫婦による一種の“投資行動”にあたる。長期的な費用と便益を比較衡量して子どもという“耐久消費財”への投資量が決定される。子ども1人にかかる教育費や生活費は1300万~3000万円程度とされるのに、『手当を月1万円出すから出産してくれ』と言われてその気になる人はほぼいないでしょう」