老後資金が足りなくなることを心配している高齢者は多いかもしれない。だが、貯蓄が目減りしないよう生活を切り詰めて暮らすよりも、生きているうちにお金を使い切るというのも、ひとつの選択肢だろう。当たり前のことだが、「あの世にお金は持っていけない」のだ。
逆に、中途半端にお金を残しておけば、相続する子供や孫を困らせてしまう場合も少なくない。実は相続争いは、ごく一般的な資産額の家庭の方が起きやすい。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。
「2021年の裁判の統計によると、遺産分割をめぐる裁判のうち、遺産総額1000万円以下が33%、遺産総額1000万~5000万円が44%と、全体の8割近くが“遺産総額5000万円以下”の家庭で起きているのです」
遺産総額が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」より少なければ、相続税はかからない。例えば、妻と子供2人の家庭なら、総額4800万円までは無税で相続できる。にもかかわらず、これほど多くの“一般家庭”で相続争いが起きているのだ。お金はできるだけ使い切ってしまわないと、亡くなった後に子供たちが争うことになるかもしれない。
財産の中でも、家や土地などは“負動産”などともいわれるほど、相続する側にとってはやっかいなことが多い。
そもそも保有する以上、維持費や修繕費がかかるほか、遺産分割のために売らなければならなくなったり、古い家は売ったところで「評価額ゼロ」ということも少なくない。
「来年4月1日から相続が発生した不動産は、3年以内の登記が義務化され、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科せられます。不動産登記には、相続人全員の戸籍謄本を揃える必要があるため、もし“三代前の土地が登記されないまま残っていた”などといった場合、相続した人にとって、大変な手間になります」(三原さん)