財産を受け継いでいくなかで、必要となるのが不動産や預貯金などの「名義変更」だ。適切なタイミングでやらないと、思わぬ手間がかかってしまうケースも少なくない。たとえば亡くなった人の銀行口座は凍結されて入出金が一切できなくなるため、名義変更は生前に手続きしておいたほうが楽だといえる。
株などの有価証券も、亡くなってからの名義変更は預貯金と同様に手間がかかる。預貯金と違うのは、生前に渡す場合は必ず「贈与」として申告する必要がある点だ。
「証券会社に贈与契約書を提出しないと株などの名義変更は進められません。ただ、相続時精算課税制度を使って一括で贈与してしまえば、死後にやるのと比べて手続きは簡単です」(相続に詳しい山本宏・税理士)
早いうちの名義変更には複数のメリットがある。
「たとえば、親が認知症になると基本的に親の財産が動かせなくなる。介護費用などの捻出のために株を売りたいケースも出てくるが、親の名義のままだと難しく、資産を有効活用できない。また、認知症になった後に株が大きく下がるなどのケースにも対処のしようがなくなります。元気なうちに子供名義にしたり、現金化するのが有力な選択肢となります」(山本氏)
その他の親の財産も、死後になると遺言書がない限りは遺産分割協議が終わるまで動かせない。
「特に自動車はエンジンもかけずに放置すると、状態が悪くなり価値が下がっていく。売却するにも廃車にするにも、亡くなった後では遺産分割協議書や相続人全員の実印が必要になり、時間も手間もかかります。親の生前中からあまり乗っていない車であれば、子供に名義変更するか、早めに現金化するのがいい。
中古車買取センターに売るなら、手続きは印鑑証明、身分証明書を用意して売却書類にサインするだけ。親の死後に手間と時間をかけて現金化して分けるとなると、面倒が増えて遺産分割協議のなかでもめごとのタネになりかねません」(山本氏)
名義変更を工夫することで、トラブルを回避できる可能性がある。
※週刊ポスト2023年5月5・12日号