たびたび有名人や企業の脱税が話題になり、スポットが当たる国税調査官。税務調査では国税調査官はどのように脱税の端緒をつかんでいるのだろうか。新刊『税務署はやっぱり見ている。』が話題の、元国税調査官の税理士・飯田真弓氏が、過去の経験をもとに解説する。
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税務調査は、ほとんどの場合、招かれざる客ですから、やり取りの過程で調査を受ける経営者も感情的になることがあります。
「そんな何年も前の話、覚えてるわけないだろ!」「全部顧問税理士と経理担当者に任せてるんだ!」「勝手に調べてくれ!」
私が調査官時代、調査先で経営者から言われてムッとした言葉を集約すると、この三つになりました。これらの言葉を聞くと、調査官魂に火がついたものです。
税務調査の進め方は調査官によってそれぞれ違うと思います。税務調査に出たての何回かは、上司についていって、どんなふうに話をするのかを見て勉強しました。しばらくして一人で税務調査に行くようになったのですが、男性の上司と同じようにやっても、年端もいかぬ女性だし、なかなかうまくいきませんでした。
私は初級国家公務員税務職の高卒女子一期として採用されました。当時、税務署で働く女性職員の割合は10パーセント以下で、私が配属された署には女性の先輩調査官がいなかったのです。
「どうすれば自分のスタイルで税務調査を行うことができるのだろうか」
試行錯誤の上、経営者自身にいろいろ質問し、話をうかがう中で矛盾を見出して、その部分を追及していくという方法に至りました。調査官は誰もが、高飛車な態度で調査を進めると思っている方が多いかもしれませんが、そうではありません。税務署は国の行政機関の一つであり、国民の意見を直接聞くことも大切な仕事です。私はいつも経営者のお話は、時間をかけて、よく聴くように心がけていました。