事件報道において、加害者が一斉に実名で報道された後に、不起訴になって匿名報道に変わることがある。こうした報道姿勢の変化は、どのような考えに基づくものなのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が考察する。
【相談】
以前、テレビ局のアナウンサーのストーカー事件がありました。当時、マスコミは実名報道に踏み切っていましたが、不起訴になると名前を伏せての報道。つまり、不起訴は無罪ということで、それでも実名報道を続けた場合、報じた側が名誉棄損などで訴えられそうだから、名前を伏せることになるのですか。
【回答】
警察は世間に周知させる必要を認めた場合、実名を出して犯人逮捕を広報することがあります。その結果、犯人として広報や広報に基づき報道された人は名誉を毀損されます。
ただし、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合」には、報道真実の証明さえあれば違法性はなく、たとえ真実の証明ができなくても、真実と信じたことに過失がなければ責任を負うことはありません。
また、公訴提起前の犯罪事実は、公共の利害に関する事実とみなされます。
逮捕段階は公訴提起前であり、公共の利害に関する事実になります。そして、マスコミが警察の広報を信頼するのは無理もないことですから、広報に依拠し、実名報道の後で事実ではないと判明したとしても、過失は否定されます。