中学受験で私立中学に合格した後も、教育費の負担は続く。さらに難関校になると大学受験向けの塾代も早期から発生するという。『中学受験 やってはいけない塾選び』などの著書があるノンフィクションライターの杉浦由美子氏がレポートする「子どもを難関中学に通わせる家庭の収入事情」第3回。高収入サラリーマンと専業主婦家庭の家計が急変して、教育費が圧迫される実例を紹介する。【全3回の第3回。第1回から読む】
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中高一貫校の生徒の家庭の半分以上が世帯収入1000万円を超える(『子どもの学習費調査』令和3年分より)。大半の家庭はその1000万円以上を夫婦共働きで稼ぎ出す。一方で、中学受験は親の受験ともいわれるように、親が子どもの受験をフォローするほど、偏差値は上がっていく傾向がある。そのため、御三家などの難関校ほど、母親が全力で子どもの受験に尽力できる専業主婦家庭が有利になってくる。
結果、御三家などの難関校には昔ながらの「高収入エリートサラリーマンと専業主婦」の家庭が多くなる。しかし、だ。かつてならば、それらの父親たちは終身雇用年功序列の制度に守られ、経済的に安定していたが、現在はそうではなくなっている。たとえば東大生が大量に就職する先として外資系コンサルがランクインするが、それらの外資系は「使えなければ辞めさせる」ために、大人数を採用しているところも多い。そうなると、高収入のサラリーマンほど雇用が不安定といえる。
そのため、御三家などの難関校の生徒たちの家庭にも、高収入だが安定はしていないケースが増え、そうした経済的困難を救済するための在学生向けの奨学金も設けられている。今回は、御三家の生徒の家庭で、「家計が急変」した実例を紹介しよう。
話を聞かせてくれたのは、東京の中央区に住む専業主婦のA子さんだ。夫は東大を出て外資系コンサルに勤め、今は国内中堅メーカー勤務である。
A子さんは私立女子校から都内の名門女子大に推薦入試で進学した。総合商社勤務の友人の結婚式の二次会で夫と知り合った。A子さんの好みは長身で細身の男性だ。高校時代から「顔はどうでもよくて、とにかくスタイルがいい人じゃないと無理」だったという。夫はその真逆だったが、コミュニケーション能力は高いし、なにより、大手外資系コンサル勤務だということに興味を持った。
何度かデートを重ねるうちに、子どもの教育への価値観が合うことが分かった。夫は中学受験の塾で、開成選抜コースにいたが、第3志望の学校に進学し、一浪して、東大文IIに入学している。
「やっぱり人脈の点で開成にはかなわないとのことでした。私も子どもはちゃんと勉強させたいと思っていたので、子育ての価値観が合うと思ったんです」
A子さんが通っていた女子進学校では、早稲田か慶應、上智に進学するのが花形だった。そこからはずれていたA子さんは、学歴へのハングリー精神が人一倍高かった。