コロナ禍によって様々な場面で社会活動が制約を受けたが、なかでも影響が大きかったひとつが、老人ホームなどの高齢者施設だろう。感染予防のために入居者と家族らの面会は制限され、地域との交流や施設内に講師を招くレクリエーションなども機会を大きく減らした。そうしたなかで、全国の施設入居者向けのオンラインライブ配信という新たな取り組みが登場している――。
6月下旬、東京都立川市にあるスタジオでは、撮影用のグリーンバック(緑色の背景紙)の前に、歌手・八代亜紀さん(72)の姿があった。
「“雨々ふれふれ”の時に、レースなんかをひらひらさせたらキレイなんですよ。今回は手近にあるタオルを使いますね」
カメラに向かってそんなふうに語りかける八代さん。大ヒット曲『雨の慕情』は、サビのフレーズに合わせて八代さんが空に向けた手のひらを肩の高さでひらひらと動かす振り付けでお馴染みだが、これを八代さん自身が座ったままできる「エクササイズ」にアレンジ。そのやり方をカメラの向こう側にいる視聴者に説明しているのだ。
このオンラインコンサート配信は月に一度のペースで行なわれ、この日の配信が13回目となった。視聴できるのは全国の高齢者施設の入居者たちである。この配信の企画から運営までを手掛ける吉田エンターテイメント代表の吉田勝氏はこう話す。
「配信先は全国2800以上の高齢者施設に加え、在宅で介護を受けている高齢者が自宅から視聴しているケースもあります。視聴するアカウントは3500以上を数え、施設では皆さんが集まって大きなスクリーンに流したりするので、1回の生配信を同時に見るのは数万人規模。最新の13回目の配信では、10万人以上のお年寄りが視聴されました」