結婚を機に家庭に入った専業主婦が、50才を過ぎて大きく花を咲かせる──。そんな経験はきっと働く主婦たちの希望になるのではないか。「世界の山ちゃん」を展開する株式会社エスワイフード代表取締役・山本久美さん(56才)が、自身のストーリーを教えてくれた。
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夏休みも終盤にさしかかった2016年8月21日。夫・重雄との別れは突然訪れました。
朝6時。私が目にしたのは、リビングの床に横たわる夫の姿でした。わが家には、“一度起きたら、ゴロゴロしちゃだめ”というルールがあったので、夫が寝そべっているなんて珍しくて、最初はふざけているのかなと思ったのです。
「お父さん、ずるいよ~。寝てるじゃ~ん」
そう言いながら体をゆすっても反応がない。血の気が引くのを感じました。慌てて救急車を呼び、すぐに病院に運ばれたのですが、すでに息はなく、そのまま帰らぬ人になりました。持病もなく、前日まで普通に会話をしていたのに……。享年59。死因は大動脈解離でした。
夫の亡骸を前に社長になれと言われて
夫は、居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」を展開する株式会社エスワイフードの創業者で会長でした。10才年下の私は、33才のときに彼と結婚し、それから16年、専業主婦でした。
病室のベッドに横たわる夫の横で、私はまず子供たちのことを考えていました。当時子供は中学3年生、1年生、小学2年生の3人で、まだまだ手がかかる頃です。専業主婦の私がひとりでどうやって支えていこう──。
そんな私の不安もよそに、病室には連絡を受けた幹部や取引先の人たちが集まってきました。そして、私たち遺族を前に、会社をどうしようかと騒ぎ始めたんです。するとひとりの取引先のかたから、「あなたが社長をやりなさい」と言われたんです。