保険金不正請求をはじめとするビッグモーターの騒動は「有名企業でも簡単に信用してはいけない」という不信感を世間に与えた。その一方で地方には、会社の規模や知名度が卓抜していなくとも、日本だけでなく世界から絶大な信頼を得ている企業がある。本誌・週刊ポストの8月21日発売号では、地方に根を張りながらも世界シェアトップクラスの分野や製品を持つ企業たちを取り上げている。専門家がピックアップした企業はどこか。
岐阜県大垣市に本社を構える電子部品メーカーのイビデンは、「先端向け半導体パッケージ基板」で世界シェアトップを占める。同製品の増産に向けて大幅投資する方針を示していることでも知られる。経済ジャーナリストの小倉正男氏が語る。
「イビデンの主力商品である『先端向け半導体パッケージ基板』は、米インテル向けが中心で、かつて同社が世界中を探してイビデンを指名発注したという伝説もあります。世界最大級の半導体メーカーである台湾のTSMCとの連携関係もきわめて強くなっており、国内外での評価が高まっている。現状はパソコン向けパッケージの在庫調整で苦戦しているが、その潜在力は無視できないものがある」
自動運転で今後ますます期待
イビデンのようにニッチな分野だが、日常生活に欠かせない電子部品を世界に提供している地方企業はほかにもある。前出・小倉氏はこう話す。
「京都府久世郡久御山町に本社を構える京写は、電子機器の主要部品である『片面プリント配線板』で世界首位の供給力を誇っており、中国やベトナムなどに生産拠点を配置しています。収益基盤がまだ弱く、ニッチ企業の域を脱出しきれていないものの、このところ業績が向上している。今後が“本物になるかどうか正念場”という段階といえます。
長野県上伊那郡箕輪町に本社があるKOAは創業から100年以上と歴史ある会社で、固定抵抗器で世界シェアトップクラスを誇ります。抵抗器は電圧を分配したり、電流を一定に流したりする電気・電子回路に欠かせないもの。以前はオーディオ機器やパソコン向けが中心でしたが、自動車向けを強化する戦略に変わりました。そのため電気自動車(EV)を含む自動車向けに強みがある。今後、自動運転など技術の進展に伴い、電子回路の需要も高まっていくことが予測されます」
カブ知恵代表の藤井英敏氏は、バルブメーカーのオーケーエム(滋賀県野洲市)を挙げる。同社は船舶排ガス用バルブで世界シェア約50%を占めることでも知られている。
「現在、新規造船の受注高が高止まりで積み上がっているため、造船に関連する会社は株式市場でも注目が集まっています。そのなかでも特にオーケーエムは、二酸化炭素の排出量が少ないことで船舶の新たな燃料として注目されるLNG(液化天然ガス)に対応したバルブの製造に注力するなど、SDGs(持続可能な開発目標)の高まりもあって、受注がすごく伸びています」(藤井氏)
全国を探していけば、世界に誇れる企業はたくさんあるのだ。(了)