相続をめぐっては、法定相続人に認知症の人がいる場合、トラブルが起こる可能性はある。相続に詳しい税理士の山本宏氏が言う。
「認知症になった相続人は一切の法律行為を行なえなくなるので、遺産分割が円滑に進まなくなる可能性があります。認知症の相続人は協議に参加できず、『成年後見人』を立てなければなりません。しかし、成年後見人が入ることで遺言通りに履行されなくなったり、事前の相続対策が無駄になったりすることがあります」
父が4000万円を遺して亡くなり、母と子供2人の計3人が法定相続人となったケース。母には自分の財産があるため、父の遺言書には「全財産を2人の子供に相続させる」と明記されていた。
「ところが相続の発生時に母の認知症が発覚。成年後見人をつける必要が生じたそうです。後見人は母の相続人としての権利を守るのが仕事なので、父の遺言に反して『遺留分』を主張。後見人に遺言の趣旨を説明したが、全く聞いてもらえませんでした」(同前)
また、成年後見人の選任は裁判所の監督のもとで行なわれ、約2か月の時間を要する。早めに行動しなければ、相続税の申告期限に間に合わなくなる恐れもあるという。
「こうした事態を避けるため、被相続人は遺留分に配慮した遺言書を作成し、弁護士や司法書士などの専門家を『遺言執行者』に選任しておくのが望ましい。執行者は遺言通りに財産の分配などを行なうことが可能。認知症の相続人がいても、スムーズに相続手続きを進めやすい」(同前)
※週刊ポスト2023年9月15・22日号