本来相続できるはずだったの遺産が、“嘘の遺言”によって相続放棄となってしまった場合、後から“放棄”を取り消すことはできるのだろうか? 実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
私は3人きょうだいで、姉と兄がいます。兄は早くに他界し、その後、母と父が他界しました。
父の死後、姉が「父の遺言で私が全財産を任されたので、ほかの人は相続を放棄してほしい」と言いました。そのため甥(兄の息子)2人は相続を放棄しましたが、その後、姉が嘘をついていたことがわかりました。
兄の早世を思うと、甥たちにも相続させたいと思うのですが、相続放棄を取り消すことはできますか。相続の手続きはまだ済んでいません。(茨城県・65才・パート)
【回答】
2人の甥御さんが相続放棄したそうですが、家庭裁判所に申し出て行う法定の相続放棄手続き(「相続放棄の申述」)をしたのですか。それとも例えば、「相続分がないことの証明書」や印鑑証明書を提出するなど相続手続きに協力して、お姉さんが1人で相続できるようにされたのでしょうか(それらの行為は実質的には「遺産分割の合意」ですが、ここでは「事実上の相続放棄」といいます)。
どちらにしても、あなたがだまされたことやお姉さんの嘘がなかったら甥御さんは相続放棄しなかったであろうことを証明できれば、相続放棄の効力を争うことができます。ポイントは、民法の「錯誤」という規定を適用できるかどうかにあります。
法律行為をした人に、その行為をする基礎とした事情についての認識が真実に反していたという点で錯誤があり、この錯誤が取引上重要であって、その誤認した事情が法律行為をする基礎になっていることが相手にもわかっていた場合、民法の「錯誤」となり、その法律行為を取り消せます。