2022年の流行語大賞に「インボイス制度」がノミネートされてからはや1年。よくわからない!という声が多い中、10月1日から始まったこの制度、正式名称は「適格請求書等保存方式」といい、消費税を正しく納めるための制度だと政府はうたうが、その実、金銭面でも事務手続きの面でも個人事業主やフリーランスの負担ばかりが増えている気がする。どうすればいいのか? このモヤモヤを解決すべく、素朴な疑問について専門家に聞いた。【全5回の第1回】
K記者こと私は、フリーランスで、これまで消費税とは無縁の免税事業者だった。そのため課税の世界に引き込もうとする「インボイス制度」は、見て見ぬふりをしていた。
「個人に消費税納税の義務を負わせるのは弱者いじめ。農民の年貢を厳しく取り立てた時代とそっくりだ!」という誰かの発言を聞き、「その通り!」と思ったものだ。
なぜ、そういわれるのか? 税理士の小島孝子さんは、次のように解説する。
「弱者いじめといわれるのは、この制度の導入で個人事業主や零細企業の収入が減る可能性があるからでしょう。正直に言って、誰も得することがないと思えるこの新制度で、わざわざ『課税事業者』となる選択肢を考慮しなければならない理由は、インボイス導入後の消費税納付額の計算方式にあります。
以前は請求書を受け取って帳簿をつけていれば、どの個人事業主や零細企業との取引でも『仕入税額控除』(*)を受けられました。ところが、導入後は原則として『インボイスを発行できる課税事業者からの仕入れ』でないと仕入税額控除を受けられなくなったのです。つまり、国に消費税を納めている事業者から仕入れないと、税金が安くならないしくみです」
【*仕入税額控除とは、売った際に受け取った売り上げ時の消費税から、仕入れ時の消費税を差し引くこと】
政府は《インボイス導入は増税目的ではない》と公言するが、小規模なりに慎ましく地道に暮らしてきた免税事業者を、外堀を埋めるように消費税納税の世界へ引き込むのは、実質“増税”といえる。
「インボイス制度による税収増は、政府の試算では2480億円。しかし、民間調査によると、フリーランスで働く人は約1577万人いて、約1兆円近い税収アップになるとの推計も発表されています(*)」
【*注/ランサーズの「新・フリーランス実態調査2021-2022年版」や矢野経済研究所等の資料に基づき、元静岡大学教授で税理士の湖東京至さんが作成・発表】
そんなインボイス制度について、小島さんに改めて基本的なことを説明してもらった。