2023年末、国立大学法人法の改定案が臨時国会にて成立した。この改正案には大学教授や学生から猛反発があったが、どこに問題が潜んでいるのか。その改正内容と問題点について、ビジネス・ブレークスルー大学学長を務める経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
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岸田文雄政権は経済愚策や自民党の政治資金パーティー裏金問題などによって内閣支持率が20%前後に落ち込み、年が明けても激動の渦中で喘いでいる。
ただし、その騒動の陰で看過してはならないのは、昨年末に国会で成立した「改正国立大学法人法」だ。
この法律は、一定以上の規模の国立大学法人に学長と3人以上の委員による「運営方針会議」という新たな合議体の設置を義務付け、同会議に大学の中期計画や予算・決算を決定する権限を与えている。さらに、大学の運営が決定に従っていないと同会議が判断した場合は、学長に改善措置を要求したり、学内の学長選考・監察会議に対して意見をしたりすることもできる。
対象は理事が7人以上いる12大学のうち政令で指定した大学で、当面は東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、名古屋大学と岐阜大学を運営する東海国立大学機構の5法人だ。
運営方針会議の委員は文部科学大臣の承認が必要となる。文科省は「明らかに不適切と認められる場合を除き承認を拒否できない」としているが、想起されるのは2020年に起きた日本学術会議の会員任命拒否問題だ。首相の任命は「形式的なもの」だったはずなのに、当時の菅義偉首相が会員候補6人の任命を拒否し、その理由を政府は全く説明していないのである。
それと同じように政治が大学人事に介入することが危惧されるため、大学教授や学生などがこの改正案は「大学の自治を侵害している」として廃案を求める約4万3000人分のオンライン署名を文科省に提出し、国会では一部の野党が反対した。しかし、結果的に同法案は自民党や公明党などの賛成多数ですんなり可決されてしまったのである。
むろん、大学に対する政府の締め付けは今に始まったことではない。たとえば、10兆円大学ファンドの運用益から支援を受ける「国際卓越研究大学」には国立8校、私立2校が申請したが、候補に選ばれたのは東北大学だけだった。文科省が“上から”監督・指導するために、全学一丸となれるかどうかという「ガバナンス(統治)体制」が重視された結果だった。