トヨタグループで不正・不祥事が続発している。ダイハツ工業の車両認証不正問題に続き、豊田自動織機のディーゼルエンジンに認証取得の不正が発覚。日野自動車やデンソーでも不祥事が発覚している。トヨタの豊田章男・会長は再発防止策としてグループ17社すべての株主総会に出席することを表明したが、経営コンサルタントの大前研一氏は「豊田会長は本質的な問題が分かっていないと思う」と指摘する。どういうことか、大前氏が解説する。
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本来、メーカーが製品を世に出す時は、社長や会長よりも強い権限を持ったQA(Quality Assurance=品質保証)担当者が必要だ。メーカーの品質管理の仕事は、大きくQC(Quality Control=品質管理)とQAに分かれる。QCは製品完成前に品質基準を満たしているかどうかをチェックし、市場に製品を出す時点の品質に責任を持つ。一方、QAは製品が市場に出た後の品質も保証し、製品を使う顧客に対して責任を負う。
たとえば、かつて私が原子炉設計者として勤務していた日立製作所には「技師長」という独立したポストがあり、複数(現在は4人)の研究開発やエンジニアリングのエキスパートがその役目を担っている。
社長や事業部長などは、新製品が開発されたら一刻も早く発売して売り上げにつなげたいと思うものだが、技師長はその製品を顧客の立場から採算度外視で厳格に検証し、日立ブランドで市場に出してよいかどうかを判断する。その結果には社長や会長も従わねばならないという絶対的な権限を持っているのだ。
トヨタグループには独自に考案した「QAネットワーク」(品質保証の網)というものがある。これは品質不具合の発生防止レベルと流出防止レベルをそれぞれ4段階に分けたマトリックス表で「見える化」し、最小のコストで最高の品質を作り込むための分析手法だ。
しかし、今回の不正でそれが十分に機能していないことが明らかになった。QAネットワークは単なるシステムだからである。会社の仕掛けとしてQAを徹底するためには、日立の技師長のような、社長や会長を超える権限を持った「バッフル板(邪魔板)」となる“天邪鬼”が必要なのだが、トヨタにはそれが欠落しているのだ。